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187 人から奪うことを生業にしている盗賊の女頭領は、ふとして出会った奴隷の心を奪うべく別の物を奪わんと企む

「(ガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴトガタゴト)

………おい!そこの馬車止まりな!

あたしらはここらを縄張りにしている盗賊だ。

あたしらが来たってことはどういうことか、わかるよな?

………あん?

金目のもん全て置いてけって言ってんだよ。

抵抗すればどうなるか………

………

…は?何もないだと?

嘘吐いてんじゃねーよ。

見た目はいかにも貧相な馬車だが、お城の荷馬車だっつーのは知れてんだ。

中の荷物だって、お宝山ほど積んでんのは知ってんだよ。

置いてかねーっつーんだったら………

(バサッ)

…ほら、こいつみたくなりたくなかったら、出すもん出せっつーんだよ。

………

…んだよ、剣なんか出して抵抗する気かよ。

おい、お前ら、やっちまいな。

(ズタッ)

(バサッ)

(ドサッ)

………ハッ!張り合いのねーヤローどもだ。

平和ボケしてる連中なんか、あたしら盗賊の敵じゃねーっつーの。

さーってっと。お宝お宝…

………あん?なんだお前?

そんな荷台の隅っこに隠れちまってて、気付くのが遅れたな。

お前も抵抗するっつーんなら…

………

…はーん、お前奴隷なんだ。

………ああ、他の連中なら、全員剣の錆にしてやったぜ。

てんで荒事になれてなさそうな奴らだったからな、あたしらにかかりゃいちころだっつーの。

で?

お前も他の奴らみたいに抵抗するのか。

………あっそ。

………

…ああ?別に、あたしらの目的は金になりそうなもんだからな。

抵抗しないっつーんなら、お前には手出さねーよ、めんどくさい。

………

…殺せ?

何言ってんだよ。今手出さねーって言ったばっかだろ。

せっかく拾った命なんだから、せいぜいどこへとも消え失せろよ。

………生きてる価値なんかない?

…行く当てもない。頼れるやつもいない、か………

………

あたしが知るかよ、そんなこと。

さてと、お宝お宝♪

―――

―――

―――

………よーし、これで全部だな。

おいお前ら、さっさとずらかるぞ。

………

…あ?なんだよお前、まだいたのかよ。

もうお前をこき使うやつなんていないんだし、どことなりとも行きゃあいーじゃねーかよ。

………

………

………

…あー、ったくもう。

(ガシ)

来い。

………いいから。黙って来いっつーんだよ。

トロくさいなお前」




「(バンッ)

………おーい、メシ持ってきてやったぞー。

…あ?なんでお前、そんなところで膝抱えてんだよ。

ここはお前の部屋だぞ?

なのになんでそんな部屋の隅っこに…

………

…ハッ!

奴隷だった頃の名残か、ああ?

お前も奴隷根性が心底浸透してるなあ。

別にお前を奴隷として使ってたやつらはもういなんだから、羽伸ばしゃあいいのに。

(トン)

…ほら、メシだメシ。

うまいもんでも食えば、ちたぁその根性もなくなるってもんだろ。

………何って、メシだよメシ。

肉焼いて、香辛料で味を付けたやつだよ。

肉くらい食ったことあるだろ?

………は?ねーの?

マジで?一度も?

いーから黙って食ってみろよ、美味いからさ。

………

…それでも食えねーっつのかよ。

あー、じゃあ何なら食えるんだ?

………

…ふーん、ならちょっと待ってろ。

―――

―――

―――

(バンッ)

なあお前、マジでこんなもん食うの?

お前が言ってた草、あたしの周りの奴らには持ってる奴誰もいなくてさ、下っ端の下っ端のそのまた下っ端が食ってるやつ奪ってきたんだけど。

………

…うわ、マジで食ってやがる。

そんなもん食わなくても、もっとうまいものいくらでも…

………

あん?もういいのかよ。まだ全部食ってねーじゃねーか。

ただでさえ腹の足しにもならないんだから、全部食ったって………

ああ?返してこいだあ?

あたしは、お前が食えるもんだっつーだからわざわざ………

…はん。その下っ端のメシのこと気にしてんのかよ。あんな連中、他の仲間からいくらでも…

…あー、わーったわーった。

じゃあそいつには代わりに他のメシ、渡してやるからさ。

だから、それはお前が食え。

わかったな。

(バンッ)

………

…あんな草食いたがるとか、マジ意味わかんねーな、あいつ。

………

………

………

…今度は、あの草が大量にある家でも狙うとするか」




「(バンッ)

…おーっす。今帰ったぞー。

………んだよ、また部屋の隅っこに居やがって。

存在感ねーんだなお前。

………ハッ!

前は目つけられたら理由もなしに殴られたんだ?

まあ、奴隷なんて大概そんなものじゃねーの?

奴隷は奴隷。

人扱いなんかされる方が珍しいだろ。

………は?

何で殴らないかって…

そりゃ今のお前が奴隷じゃねーからだろ?

お前を奴隷で使ってた連中は全員いなくなったんだしな。

もはやお前を奴隷と扱うやつはいねーってことだ。

………あたし?

…ハッハッハッ!

あたしが、お前を奴隷とか、マジ笑えるんだけど。

お前みたいな似なよなよした奴、誰が盗賊の奴隷になんかするかっつーの。

奴隷にするんだったら、もっとガタイのいい奴か頭のいい奴にするよ。

お前があたしたちの奴隷になんかなれるわけねーだろーが。

現に、お前に何か命じたことなんて一度もねーだろ?

お前を奴隷にだなんて、こっちから願い下げだね。

…ところでよ。

(ドサッ)

これ、今日奪ってきたお宝。

商人の奴らが持ってたんだけど、そいつ宝石商でさ、お宝がざっくざくってわけよ。

これとかでかい宝石付いてるし、こっちはこんなにピカピカなんだぜ?

売り飛ばしたら相当金になるんだぜ、これ。

………

…あー、なんだその。

もしお前、どれか気に入ったっつーんなら、一つくらいくれてやっても…

………

…いらない?なんでだよ?

ほら、これとか。

お前みたいな奴隷が一人買えるくらいの値が付くなんだぜ?

そのくらいのもん持ってればお前だって………

………いいから。一つお前にやるから。

だから、どれか一個選べ。

…いや、これは命令じゃねーし。

………

…ごちゃごちゃうるせーなー。

いいから一つ選べっつーんだよ。あたしからの命令だ。

………

…は?これか?あたしが首に下げてる奴?

いやこれ、昔どっかの町で拾った奴で、全然金になるようなもんじゃ………

…あたしが付けてるから?

いや、そうはいっても………

………

…ああ、もうわかったよ。

(ヒョイ)

ほら。

こんなもんでいいならいくらでもくれてやるよ。

せいぜい大事にしろよ、ったく。

(バンッ)

………

…あいつはなんで、あんなに無欲なんだか…

………

………

………

…こうなりゃ。あいつがなにかを気に入るまで、いろんな店からいろんな宝石奪ってきてやる」




「(バンッ)

…ったくよう。最近の天気はやってらんねーな。

こうもお天とさんの機嫌が悪いと、山道なんか誰も通らねえし、近くの村も人が多くて襲いに行けねーっつーの。

………相変わらずそこ好きなんだな、お前。

そこがそんなに居心地いいのなら、ずっとそこで膝抱えてるか?

………

…なあ、お前さあ。

いい加減奴隷根性忘れたら?

そりゃ長年体に刻み込んだものはすぐには抜けねーんだろうけど、もうそんな扱いするやつは周りにいないんだ。

お前は誰かのものじゃない。

お前はお前で、一人の人間だ。

自分のやりたいように生きてっていいんだよ。

………あたしなんて、生まれてことから好き勝手やって生きてきてるからな。

欲しいものは全部人から奪ってきた。

自分が楽しく生きられるよう、自分だけがいい思いするように生きてきた。

少しくらいはあたしのこと見習えよ。

………

…なあ、今日はお前、あたしのこと好きにしてもいいぞ?

こんな天気じゃ今日はもうやってられねーからな。

別にあたし、この後何にもやることもねーし、暇だからさ、お前の相手してやるよ。

………どういう意味って、わかんねーのかよ…

奴隷っていうのは本当何にも知らねーんだな。

だーかーら、今日はあたしの体はお前のもんだっつってんだよ。

お前はあたしに何をしたっていいって意味だ。

………

…は?手つなぐ?

いや、ダメってわけじゃねーけど。そんなのでいいのか?

………ほら。

(ギュッ)

………本当にお前、何考えてるのわからねーよ。あたしにはさ。

―――

―――

―――

(…バタン)

………

…手握りながら眠りやがったあの野郎。

こんなにいい女目の前にしといて、手つないでそのまま眠りこけるとか、もしかしてついてないのか?

………

………

………

…わからねーわからねー。どうすりゃあいつが喜ぶのか、笑うのか、さっぱりわかんねー。

クソッ。

(ドンッ)

………最初は捨て猫拾ったくらいのつもりだったのに、今じゃあいつのことが頭から離れねー。

どうしちまったんだよあたしは。

あたしは盗賊。

欲しいもんな全て手に入れてきたのに、あいつだけは手に入った気にならない。

こんな気持ち今までで初めてだ。

どうすりゃあいつがあたしを求めてくるようになるんだか。

………

………

………

…こうなりゃ、今度から金目の物奪う前に、全ての男の心奪ってやる。

百人も奪えば、あいつの心を奪えるようになるだろ。

………まっ、もちろん。

あいつ以外の男なんて、ちっとも欲しくなんかねーけどな。

奪うだけ奪った後は、剣の錆にしてやる。

その後、あいつの心を絶対に奪って奪って、奪いつくして、あたしのものにしてやる。

じゃなきゃ、盗賊の名が廃れるっていうもんだしな」

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