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184/285

184 担当医からの病状宣告。僕が長期入院することになった症状の名前は…

「………これは、とても深刻な病気だ。

もうすでに手遅れ…

初期症状は出ていたはずなのに、この私が見抜くことができなかった。

自体はとても深刻だ。

この病気が発症してしまった以上、今までのような生活を送ることは不可能だろう。

これまでのんびりと生活していたこと自体が奇跡ともいえる。

この病気はその体に一生をかけて蝕んでいく不治の病。

治療法はなく、対処療法さえ確立されてはいない。

故に、一生をかけて向き合っていく他ない。

…やれやれ、私は君の家の主治医として長年勤めてきたわけだが、まさかこんな病気になるとはな。

まったく思いもよらなかった。

君が小さい頃から私は君の病気を治してきた。

今の私に君の知らない所などどこにもない…とそう思っていたのだがな。

思えば、君も成長したものだ。

赤ん坊のころはよちよち歩きしかできなかったわけだが、今では一流の学校に入学し、知識を蓄え、文武両道、生徒会長して学友達を束ねている。

あの家の教育の賜物だと言えばそれまでだが、しかしそんな訳がないことはこの私が十分すぎるほど知っている。

医療系の学問について私に学びを請うてきたこともあったが、既に今の君は私の知識と同等か、それ以上のものがある。

仮にもし、医者を目指したのだったら、君は私を超える世界的権威の医者になることだろう。

まあ、そうなならずにあの家を継ぐのだから、それは世迷言の夢物語だがな。

………しかし、どうしたものか。

こんな病気に掛かってしまった以上、跡取りという将来さえ不確定事項になるかもしれない。

それは、君にとっては深刻な問題だろう。

幸い、まだこのことは私のところで情報が止まっている。

看護師達の口から伝わることもないだろう。

私があの家の主治医である以上、この手の問題は私に全権がゆだねられている。

その点は安心してくれ。

………ん?君が何の病気なのかって?

おいおい、私は君の病気だなんて一言も言ってないぞ。

病気になったのはこの私だ。

あの家の主治医という立場でありながら、こんな病気になってしまったことに対して、申し訳ない気持ちが少なからずある。

どうしてこんな病気なったのか、きっかけが何だったのか、まるで見当がつかない。

いつの間にかそうなっていた、とそう言わざるを得ない。

………いや?体調はすこぶる健康そのものだ。

これから10人連続のオペだと言われても、可及的速やかに処置を終えて手術室を後にできるだろう。

そう、だからこれは、精神性疾患の病気だ。


恋の病、という名前のな。


私は今までその言葉を知っていたはいいものの、都市伝説の類のものかと思っていた。

だが実際に自分がかかってみると、想像以上に深刻な症状だと自覚できる。

何せ君のことを考えるだけで胸が高鳴り、激しい動機に見舞われ、仕事に集中できなくなる。

君が他の女性を話しているのを見ると、嫉妬し、嫌悪し、排除する考えが及ぶ。

君が私の視界にいない時には君の行動に思いを馳せ、予想し、正解かどうかを確かめたくなってしまう。

君との思い出に花を咲かせれば、寝る間も惜しんで君との邂逅を繰り返しては頭の中で再生を繰り返す。

これが恋の病でなくてなんというのか、いや、これは恋の病でしかない。

…だから今君がここにいるのも、私の恋の病のせいだというわけだ。

君は私の指示に従ったスタッフによって、この病室まで運ばれてきた。

君が健康体そのものであるにも関わらずに、な。

そして君はこれから、一生この病室で入院生活を送ることになる。

………どうしてかって?

だからいったろう、恋の病のせいだとな。

君の側にいたい、君を独占したい、君を私の手元に置いておきたい。

と、いう気持ちの表れさ。

この病室を抜けだそうとは考えないでくれたまえよ。

私は君の主治医だ。

主治医である以上、君がどんな症状に見舞われている方は私の一声で決まる。

君が風邪だと言えば風邪ということになり、君が骨折したと言えば骨折したことになり、君が癌になったと言えば癌になったことになる。

仮のここから抜け出せとしても、すぐまたここに舞い戻ってくることになるだろう。

君はこの先の将来、この病室だけで過ごすことになる。

この私しか入ることができない病室で、一生を添い遂げようではないか。

君は、私を恋の病にさせた大事な大事な愛する人、なのだからな」

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