183 誘拐された男女。二人寄り添って監禁生活を過ごすがいつになっても助けは来ないままで…
「………
………
………
…助け、来ないね。
もう三日はここに閉じ込められてるけど、誘拐犯以外、誰も来ない………
警察は何やってるんだろうね、まったく。
………うん。
確かに、私達お互い一人暮らしの学生だから、誘拐されてることすら、気付いてないのかもね……………でもきっと大丈夫。
その内、必ず助けが来るから。
………
………ん、大丈夫?
腕、傷む?
………赤く腫れてるの、全然治らないね。
右手、まだ動きそうにない感じ?
そっか。
でも、私が一緒なのが不幸中の幸いだね。
君の手当てはできるし、ご飯は食べさせてあげられるから。
………謝らないで。
悪いのは全部、私達をここに閉じ込めた奴らなんだから。
だから君は、全然悪くない。
そういうのは全部、私に任せてくれればいいから、ね?」
「………じゃあ上、脱がすね。
…もう、今更恥ずかしがらないでよ。
君が恥ずかしがると、こっちだって恥ずかしくなってくるんだから。
ただ汗を拭くだけなんだから、我慢してね。
………だいぶ、汗かいてるね。
そんなに暑いってわけでもないのに。
でもこんな状況じゃ、仕方ない、か………
…私?
あー、私はそんなにかいてないかな。
元々、そんなに汗っかきってわけでもないしね。
………ほら、全然ベタベタしてないでしょ。
…うん、だから私は、大丈夫。
………
…でも、心配してくれて、ありがとう。
こんなところに閉じ込められて怖いはずなのに、私なんかの心配してくれて………
………そう?
君に優しいなんて言ってもらえると、すごく嬉しいな」
「………
………
………
(ガチャガチャ)
(バタン)
…あ、誘拐犯。
ねえちょっとあなた。
いい加減、私達をここから出してよ。
何が目的かは知らないけど………
(ガシ)
いや!いや!離して!
引っ張らないでよ!
一体どこに………
(バタン)
(ガチャガチャ)
―――
―――
―――
(ガチャガチャ)
(バタン)
(ドンッ)
きゃっ!
いたた…
ねえ、もうちょっと普通に扱いなさいよ。
こんな手荒な真似して………
(バタン)
(ガチャガチャ)
………ごめんね、一人にしちゃって。
一人で怖かったよね。
…うん。
また、私にご飯作れって言って、連れ出された感じ。
隙があったら外に助けを呼びに行こうかと思ったんだけど、ずっと見張られてて………ごめんなさい。
………
そう言ってくれてありがと。
…それより、お腹空いたよね。
私達の分も持ってきて来たから、一緒に食べよう?
………
…はい、あーんして。
………君は右手が使えないんだから、いいの。
こんなことくらいしかあ、私はできないから。
はい、あーん。
…どう、おいしい?
………
そっか、よかった。
まだまだあるから、たくさん食べてね」
「………
………
………
………もう、十日くらいか…
ここにいると、時間の感覚なくなっちゃうよね。
………
…大丈夫大丈夫。
怖がらなくても、私がここにいるから、平気だよ。
(ギュッ…)
………
(ガバッ)
…え、何?どうかしたの?
いきなりギュっとするの、ダメだった………?
…え、シャンプーの、匂い………?
………
………
………
………あっちゃー、しくじったなー。
服はそのまま変えないようにしてたんだけど、そっちからバレちゃうかー。
…あー、うん。
多分、君が想像しているとおり。
私は君のように誘拐されたんじゃなくて、君を誘拐した側なの。
………と、いうか、君の誘拐を企てたこと自体、私の目的っていうか。
………ああ、あの誘拐犯もどき?
あれは、私が雇ったホームレスの人。
大分お金に困ってるみたいだったから、ちょっとお金払うって言ったらすぐにOKしてくれたんだ。
でもちょっとお金がないからって、すぐに犯罪に加担するとか、終わってるよね。
…え、私の目的?
それはね………
君に私を好きになってもらうためだよ。
名付けて、『砂漠にオアシス大作戦!』
誘拐されて閉じ込められてるところに一緒にいるパートナー。
怪我をした君はパートナーに色々を奉仕を受けて段々好きになってもらうっていう作戦。
いやでも、こんなに早くバレるなんて予想外だったな。
ちょっと油断しちゃったかも。
………うん?いやいや。
そりゃあ私のミスで作戦バレちゃったけど、でも全然まだ終わってなんかないよ。
だってまだ、君を誘拐していることには変わりないもん。
………あのね、どんな人でも、ず―――――――――っと、同じところに閉じ込められてると、心が変わっていくの。
どんなに高名な学者でも、どんなに権力高い人でも、その内心をおかしくする。
君だって、ず――――――――っと、ここに閉じ込められて、私以外の人と会えなくなったら、私以外のことなんか、考えられなくなるの。
最初は怒りかもしれない、憎しみかもしれない。
でもそれは所詮、愛情の裏返しなんだよ。
ここでず―――――――っと、私を見続けていれば、その怒りも、憎しみも、次第に愛へと変換されていく。
私のことだけしか思い浮かばなくなる。
それはとっても深い愛情だと思うな。
………
…ふふ。
君がいつまでそうやって言い続けられるか、見ものだね。
ここに閉じ込めておくって言っても、私は君にすっごく優しくしてあげるから。
食事は食べさせてあげるし、体吹いてあげるし、夜は添い寝して。
そうやって私の愛情を注ぎ続けてあげる。
ず―――――――っと、ず―――――――――っと、君が私を好きになってくれるまで、君が私を好きになってからも。
君のことが、大好きだから」




