177 近所に住む面倒見のいい年上お姉さんは何があってもボクの面倒をすべてみてくれる
「(ガチャッ)
………あっ、おかえりー。
…おー、今日はどこで遊んできたの?
(………)
…そっかーそっかー。
子供は元気に遊ぶのが仕事だからね、えらいえらい。
けど、そんな服泥んこにしちゃったんなら、先にお風呂入ってきちゃいなさい。
身体についた汗を流すとさっぱりするからね。
………うん、お風呂はもう沸かしてあるよ。
着替えも脱衣所のところにやつ適当に着ちゃって。
お風呂から出たらごはんにするから。
…はーい、いってらーしゃい。
―――
―――
―――
…お、お風呂あがった?
………って、ダメだよダメだよ。
ちゃーんと髪まで乾かさなきゃ。
濡らしたままにすると風邪ひいちゃうよ。
…ほら、じっとしてて。
(ふきふきふきふき)
………よし、これでオッケー。
それじゃあテーブル着いて。
ごはん、用意してあるから。
………ん、何?
(………)
…おー、おー。ちゃーんとありがとうが言えてえらいね。
でもどうってことないよ、このくらい。
ボク君のお母さんとあたしは親友だからね。
ボク君の両親は二人とも仕事で忙しいんだし、二人がいない間、ボク君の面倒見るのが近所に住むあたしの仕事なんだよ。
(………)
…それでもありがとうって。
本当にいい子だよ、ボク君は。
(ポンポン)
…っとっと、ご飯だよご飯。
あたしが手によりをかけて作った料理、冷めないうちに食べようね?
…あ、なんだったらあーんとかしてあげるよ?
………そう。
昔はあーんしてあーんしてってせがんできたのに、これも成長だねえ」
「(サッサ、サッサ)
(パッパッパッパッパッ)
………ふう、この部屋はこんなもんかな。
後掃除してないのは…
(バタン)
………お、ボク君。勉強してるんだ、えらいねー。
(………)
…あー、テストねー、テスト。
あたしも中学の頃は結構苦労したなー。
まあでも、中学のテストくらい、多少悪い点とっても全然後で取り返せるからね。
いい点とれなくたって、あんまり落ち込むもんじゃないよ。
………そう。それでも頑張るなんて、本当にえらい子だね、ボク君は。
…でも、本当にあんまり根詰めちゃだめだよ。
両親が離婚しちゃったのは、決してボク君が悪いとかそういうんのじゃないからね。
あの二人の相性が悪かったっていうか、性格が合わなかったていうか…
…うん、まあ。なるようにしかならないもんなんだよ、人生っていうのは。
………ん?
いや、あたしがこの家に来るのは全然苦じゃないよ。
ボク君のことはそれこそ小さい赤ちゃんの頃から見てきてるんだもん。
ボク君はあたしの子供っていうか、年の離れた弟みたいだって思ってるから。
………あ、でも。10、20離れててお姉さんっていうはさすがに無理だね。
(………)
…おー、おー。そこで『お姉ちゃん』って言ってくれるのはわかってくれてるじゃん。
…でもさすがに外では言わないでよ。
恥ずかしいから。
(………)
…ん、なになに?
………あー、数学の問題かー。
…えっ、何?今時はこんな問題やってるの?
うーん、うーん………
………いや、大丈夫大丈夫。
ちょっと問題読めばすぐにわかるはずだから」
「(ガチャ)
………ボクくーん、洗濯機回すけど、洗濯物あるー?
…って、あー、あー。
床に散らかり放題じゃん。
脱いだら洗濯籠に入れておいてくれると楽なんだけどねえ。
…あ、別にいいよいいよ。これもあたしも仕事の内だし。
………それより、ボク君はそれ飽きないよねー。
毎日毎日ゲームばっかやってて、たまには外歩きたくなる気分とかならないの?
…あ、別のゲームなんだ。
あたしはそういうの全然やらないからね、みんな同じゲームにしか見えないよ。
………あ、そうそう。
さっき、バイト先の店長だっていう人から電話あったけど、なんかやらかしたの?
(………)
…ふむふむ。
ふーん。
そんなことがあったんだ。
お客さんと喧嘩するのはいいとは言えないけど、でもま、人間どうしても譲れないってことはあるしね。
ボク君が悪いんじゃないよ、きっと。
………それで、そのバイトはどうするつもりなの?
…うんうん。やめちゃえやめちゃえ。
今日日、バイトなんていくらでもあるんだし、気に入らなかったらやめちゃえばいいんだよ。
いくらお父さんが蒸発しちゃったらって、家に全然お金がないってわけでもないんでしょ?
それにあたしは、ボク君のためだったらいくらでもお金なんて出してあげるしね。
ボク君がそんなこと気にしなくていいんだよ。
………そうそう。
ちょっと前に会社辞めたのだって、全然大丈夫大丈夫。
聞けばボク君じゃなくて、その上司の方が悪いんじゃん。
そんな会社にいつまでもいなくてよかったんだよ。
ボク君が傷つく前に辞めてよかったとさえ言える。
ボク君は正しい判断をしたんだよ。
今回辞めたのも2年前に辞めた時も4年前に辞めた時も10年前に辞めた時も、全部ボク君は間違ってなんかない。
ボク君はボク君のままでいいんだよ。
………え、新しいゲーム?
もう、またー?
ついこの間それ買ってあげたばかりなのに、もう次のゲームなんだ。
…ううん、いいよいいよ。わかったわかった。
後で通販で注文しておくから。
それまでは、そのゲームで我慢してて。
…いいっていって。
あたしは、ボク君のためなら何でもしてあげるからね」




