173 いつも通っているパン屋さんは、あなたに毎朝を焼き立てのパンを食べてもらいたくて…
「いらっしゃいませー。
いらっしゃいませー。
本日開店のパン屋です。
よろしくお願いしまーす。
…あっ。買っていかれますか?
………ありがとうございます。
お客さんがこのお店の最初のお客様です。
当店のおすすめは………」
「いらっしゃいませー。
………あ、今日も来てくれたんですね。
…美味しいから通ってるですか。
本当、毎度毎度ありがとうございます。
私、北の方の国出身なんですけど、ここではいろんな種族の人達がいて、私の味が受け入れてもらえるか心配だったんですよね。
でも、あなたが最初のお客さんとして来てくれて、美味しいって言ってもらえて、自信が付いたんです。
そうやっていく内に他のお客さんにも喜んでもらえるようになって、店も繁盛してきて、あれもこれも全部お客さんのおかげなんですよ。
それで今日は………」
「(コンコン)
(バタン)
こんにちは。
…へー、ここがあなたのお家なんですね。
片付いててきれいです。
………あっ、そうそう。
今日の分のパン、お持ちしましたよ。
………頼んでないって。
ええ、まあ、頼まれてたわけじゃないですけど、でもあなたは毎日お店に来てくれるじゃないですか。
それが今日に限って来なかったので、こうしてお邪魔しちゃいました。
…ああもちろん、パンを置いて行ったらすぐに退散します。
お店の方を空にするわけにもいかないですしね。
………家の場所?
それなら他のお客さんに聞いたらすぐに教えてくれまして。
何でも、お隣さんの獣人さんととても仲が良いんですよね?
その人に聞いたら教えてくれました。
…あっ。いっけない。
パン釜、火つけたままだったんだ。
それじゃあ、失礼します」
「………あっ、いたいた。
おーい。
やっと見つけましたー。
…えっ、なんでってそれは。
もちろん、あなたにパンを届けるためです。
それにしてもこんなところまで来てるなんて思いもしませんでしたよ。
エルフの方との旅行でしたよね。
こんな山奥にまで来るの、一苦労しちゃいました。
………どうしたんですか、きょとんした顔をなさって。
もう、やっぱりお腹が空いてるんじゃないんですか。
…はい、今日のパンです。
これ食べて、元気になってくださいね」
「いらっしゃいませー。
いらっしゃいませー。
本日開店のパン屋です。
よろしくお願いしまーす。
………こんにちは。
今日もまた、食べに来てくれましたね。
このお店でも、お客さんが第一号のお客さんです。
………はい?
ええ、そうですよ。
お客さんがこの町に引っ越してきたから、私もこの町に引っ越してきたんです。
でもあなたって、ここ最近何度も何度も引っ越しなさるんですね。
この前は獣人の村で、その前は海のそばの町で、その前はエルフの………
こんなに引っ越しが多いなんて、そういうお仕事なんですか?
まあいいです。
お客さんがどこにいても、毎朝必ず私のパンを食べてもらいたいんです。
それが私にとってのお客さんであり、お客さんにとっての私です。
…もちろん、お代がない時はない時でツケでもオッケーです。
払えないからって、お客さんを追い返すマネなんてしません。
お客さんは、私にとってとっても大事なお客様。
私のパンをおいしそうに食べてくれる、特別なお客様。
これからも毎日、私のパンを食べてくださいね?」




