172 いつも終電まで残業する後輩は調子に乗って僕をからかうのが趣味だが…
「(カタカタカタカタ×2)
(カタカタカタカタ×2)
(カタカタカタカタ×2)
………せんぱーい。
そっち終わりそーっすかー?
………はい。こっちもまだまだっす。
もう他のみんなは帰っちゃってるみたいですし、私達二人だけっすね。残業してるの。
………警備員さんは警備員さんっしょ。
揚げ足取らないでくださいよー。
………
…しゃべるなって。
いーじゃないっすか。
しょーじき、こんな夜遅くまで画面向かってるだけなんて、退屈すぎます。
先輩と雑談でもしなきゃやってられないっすって―。
…あ、よかったらお菓子食べます?
(ゴソゴソ)
どぞー。
………スルメの何が悪いんすか。
美味しいじゃないっすか、スルメ。
それにメジャーリーガーはガム噛んで試合やってるんす。
何か噛んでた方が集中できるんすよ、きっと。
………そりゃそうっすよ。
昼間にスルメなんか噛んでたら部長に叱られるでしょうが。
もし昼間にスルメ食べていいんだったら、こんなに遅くまで仕事してないっす。
…昼はサボってないっすサボってないっす。
一見さぼっているように見える行動でも、英気を養うって意味合いがあってっすね………
(カタカタカタカタ)
あー、もう。聞いてますかー、せんぱーい?
(カタカタカタカタ)
はいはい、聞いてないんすねわかりました。
残業やりますよーっだ」
「………ふう。ちょっと休憩休憩っと。
………あれ、先輩。そこの数値ちょっと間違ってません?
ほら、そこっすそこっす。ここの数値。
………やっぱそうっしょ。そこの数値よく間違いやすいんすよねー。
…って、そう教えてくれたのは先輩じゃないっすか。
元教育係の尊厳、底に落としましたね。くっしし。
いやー、入社当時に先輩にお世話になりきりでしたけど、今じゃ私の方が仕事できますもんねー
これじゃあ先輩の面目丸つぶれっす。
…あ、でも先輩は先輩で、私はちゃーんと尊敬してますよ。安心してください。
どこがって…
うーんと…
うーんと………
うーん、と………………
………うんうん。ともかく先輩のことは尊敬してますしてます。
いつもいつもこんなに遅くまで残業して、会社に身を粉にして働くなんて、私にはとてもできない芸当っす。
『その割にはいつも残業』って…
いや、それは先輩が残業してる時だけっす。
私、だいたい普段は定時で上がるほど早いんすから。
先輩はいつもいつも自分の残業の時に私を見てるから、そう思うだけっすよ。
私は先輩以上に仕事できるんですから、本当は。
だから上司にいろんな仕事押し付けられて………
あっすんませーん、今のはオフレコで。
その分高い給料もらってるんで、いいっちゃあいいんすけどね。
………いや、いーんすって。
ちゃーんと私はやってますから。
…もう、そういう心配してくるところが先輩の………
いや、何でもないっすー。
ほらほら、早くやらないと、終電間に合わないっすよ?」
「(カタカタカタカタ)
………せんぱーい。飲み物っす。
…いやいいっすよ、飲み物代くらい。
っていうかいくら先輩だからって、飲み会で全部払おうとするのもいい加減やめてくれません?
10、20コ違うならともかく、先輩と私、数年しか違わないんすから。
先輩だからって後輩に払わせないようにするの、ある種のパワハラっすよ。
………そーゆー、先輩ムーブがパワハラって言ってるんす。
…それよりほら、早く飲まないと冷めるっすよ。
(ゴクゴク)
…センパイってなんでそんなにおしるこ好きなんすか。
甘党にしたって、おしるこじゃなくてもいーでしょーに。
あーはいはい。あんこがいいんすねあんこが。
お土産の饅頭とかもバクバク食いますもんね、先輩。
………そりゃ知ってますよ。ずっと隣の席なんすから。
晴れの日も雨の日も風の日もいつもいつも先輩の隣。
先輩のことは見すぎるほどに見過ぎてますって。
なのにこの先輩ときたら、私のことは全然………
いえ、何でもないっすー。
それよか、もうちょっとで終わりっすよね。
ちゃっちゃっと片して、今日は終電で帰りましょう」
「………ふひー、終わった終わったー。
あー、今日も疲れたー。
…先輩もギリギリ終わってよかったっすねー。
………ま、最後の方に手伝ってあげた私のおかげなんでしょうけど。くっしし。
………いや、そこで素直に感謝しないでくださいっすよ。
もう、調子狂うなー。
それより先輩、ちゃんと歩けます?
(よろっ…)
ほら、言ったそばから言わんこっちゃない。
先輩って、物事を最後までやる通す気力はあるんすけど、それが終わった時のガス欠感半端ないっすね。
無茶した時なんか、まともに歩けないくらい。
先輩、最近仕事抱えすぎじゃないっすか?
………先輩?
せんぱーい?
あーあダメだこりゃ。
しゃーないしゃーない。
これはしょうがない。
タクシー呼びますか」
「(ガチャッ)
ほら、先輩、入ってください入ってください。
先輩の家ですよ。
(………)
じゃあまあ、先輩をベッドにっと。
せんぱーい、起きてます―?
(………)
…起きてない、か。
―――
じゃ、ヤるとしますかね。
先輩がこんなに無防備なのがいけないんすよ?
いくら会社の後輩だからって、こんなに簡単に家に上がらせるなんて。
…っていうのも、十何回目かなんすけどね。かれこれもう。
先輩はいつもいつも体力ギリギリまで残業する。
そんな先輩を『たまたま』残業をご一緒していた後輩が家に送る。
ならちょっとくらい、ご褒美もらっても文句ないっすよね?
…っつっても、先輩は落ちてて全然わからねーんでしょうけど。
まあいいっすいいっす。
もらえるもんがもらえるならそれで。
大事な大事な後輩に、ちゃんとご褒美くださいね?先輩。
ご褒美もらう代わりに、私も先輩に色々あげますから。
今夜も朝まで私の相手をしてもらいますよ、先輩♪」




