170 同じ寮に入っているダウナー幼馴染は、門限を破ると決まって僕の部屋に入ってきて…
「………
………
………
(コツン)
………
………
………
(コツン)
………
(ガラガラ…)
…おっ、開いた開いた。
気付くの遅いんだっつーの。
(ヒョイッ)
………ああ、街のゲーセン行ってた。
格ゲーやってたんだけど、めちゃくちゃ強い奴がいてさあ、何とかそいつから一勝もぎ取るまで粘ってたら、こんな時間になっちゃったってわけ。
…いやいや、あそこで逃げたらゲーマーの名が泣いちゃうじゃん。
寮の門限越えるのも仕方ないって。
………やだよ。あのおばさんに怒られるのなんて。
あのおばさん、怒る時ずっと前のこととかねちねち言ってきてうざいから。
あんなおばさんに怒られるより、あんたの部屋からこっそり入った方がいいでしょ。
別に女子禁制っつっても、同じ寮生なんだから寮内にいればバレないんだし。
私ショートカットだから、これまでこの階の廊下歩いてててバレたこともないしね。
…ま、さすがに今の時間だと部活帰りの人も多いから、しばらくはここにこもらせてもらうけどさ。
………えー、いいでしょ。
こんなにかわいい女子一人、匿いもせずに出てけって言うんだ?あんたは?
…私よ私。他に誰もないっつーの、ったく。
………そーだ。この間の漫画の続き、ある?
あれ、途中までしか読めなくてもやもやしてたんだ。
…え、もう返した?
私がまだ読んでなかったのに…
まっ、いいや。
漫画ないんだったら、適当に寝てるから。
ベッド借りるよ」
「………
………
………
(コツン)
(ガラガラ)
(ヒョイッ)
…ふー、さぶさぶ。
部屋の中生き返る―。
…いやそれが、今日コート持ってくの忘れてさ。
こんな寒い中、コート着ずに出てくのは自殺行為以外の何物でもないね。
………そうそ、それで駅前にできたお店で新作スイーツ食べてきたんだけど、これがもう本当うまくて、ほっぺたおちるかと思った。
…いや、言葉のあやだし。
本当にほっぺた落ちたら大変じゃん。
でもあのアイス、本当うまかった。
毎日食べに行きたいくらい。
………ぐ。
まあ確かに、そんなことしたらすぐに財布の中破産するけどね。
夢くらい言ってもいいじゃん。
あんたって昔からドライだよね。
おやつ出てもがっつかないし、皆が泥だらけで遊んでるところを遠くから見てたり、「レベルが違う」とか言って年上の人と話してて結局戻ってきたり。
…あっ、でも、あんたって私が女だってこと、あの頃はわかんなかったんだよね。
この学校入ってあんたに最初に話しかけた時の反応、今でも目に浮かぶな。
リアルに目が点になってる人、初めて見た。
………えー、いやそりゃあ、昔は女だって言ったことなかったけど、そんなことわざわざ言う?
一緒に遊んでて楽しい、で十分だよ、昔は。
それに、私が女だとしても、あんたはあんたで変わらないんだし。
普通の男子だったら、寮とはいえ自分の部屋に女の子がいるっていう状況にあたふたして、テンパって、なにかやらかすのが関の山。
………そうだね。
あんたにとって私は親友。
親友は親友であって親友以外の何物でもない。
そんな親友だからこそ、これからも門限破った時には部屋に入れて………
………えー、そこはYESって肯定するところでしょ。
まったくわかってないな、あんたは」
「………
………
………
(コツン)
(ガラガラ)
(ヒョイッ)
………はー、危なかったー。
…それがさ、ここに帰ってくる前、生活指導のハゲに遭遇しちゃってさ。
遭遇っていっても、暗かったからあっちは気付いてなかったんだろうけど、それでもこっちが気付いたのがちょうどすれ違う直前で、バレないかハラハラした。
まっ、さすがにあのハゲも全員の生徒覚えてるわけないし、取り越し苦労だったけど。
今日ほど、あんたの部屋が一階だってことに感謝した日はないね。
………ん、あれ。勉強してたんだ、珍しい。
テスト前でもないのに勉強なんて、明日は雪でも降るのかもね。
…ふーん。いい会社に入るため、か。
勉強はいいことだと思うけど、学生の内からそんなに根詰めなくてもいいと思うけど。
………ふっふっふ。
成績は私の方が上だよ?
何なら、わからないことがあれば教えるけど、ワトソン君?
…そうかそうか、ノリが悪いな。
ならこっちは、黙って漫画でも読んでるよ。
………
………
………
…っていうか、本当にどうかした?
いい会社に入るためとか、らしくないし。
それともあれ?
彼女ができたとかそういう話とか。
いやまあ、あんたに彼女なんてできるわけ………
………は?
彼女が、できた?
いつ…いやどうして?
…へー、一昨日告白されて。
それであんたは、オーケーしたっていうわけ?
………ふーん。
………………………………なんで?
…なんではなんでだよ。
なんであんたは告白にオーケーしたんだっていう疑問、クエスチョン。
…可愛かったから?
あっはっはっはっは!
要は外面がいいからそれに騙されたと、そういうことか。
………いやいや、騙されてる騙されてる、あんたは。
だから、今からその騙されたあんたを私が助けてあげるよ。
(ゴソゴソ)
………何って、見ての通り。服を脱いでるだけ。
今からあんたに、本当の可愛いってことを教えてあげるよ。
それがわかれば、そいつのことなんてすぐに忘れるって。
………部屋を出たり、大声出すのはなしだから。
今自分の部屋に女を入れているっていう状況、バレたらどうなるのかな?
私が『襲われた』って言った日にはどうなるのか、想像できなほど馬鹿ではないよね?
………安心しなよ。私が可愛いってことがわかってくれれば、そんなことはしないであげるから。
…さて、今日は自分の部屋には戻れないかな。
一晩かけてじっくりと教えてあげるから、準備はいい?
拒否したところで、逃がしてあげないけど」




