表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/269

168 彼がよく行く馴染みの鍛冶屋は他のお店に浮気すると嫉妬してしまい…

「(カランカラン)

…らっしゃっせー。

今日はどんな用件で………

…って、あんたか。

悪いけど、頼まれてた剣はまだできてないよ。

何本か打ってみたんだけど、なかなかいいのができなくてさあ。

………文句言われる筋合いはないわよ。

まだ期日前なんだから、あんたは黙って待ってなさい。

…つか、あんたの注文が細かすぎるのよ。

切れ味が良くて、バフが付いてて、耐久性も高くて、それでいて軽くて扱いやすい剣って、贅沢過ぎるの。

もうちょい注文絞ってくれれば、もっと早くそれなりの剣ができるのに。

………いや、引き受けたからにはやるからいいわよ。

それで?今日は何しに来たの?

………斧?

あんたにしては珍しいわね。

斧なんて使ったことないのに。

………

…あー、そういえば最近そんな話も聞いたっけ。

斧使いの凄腕の冒険者がいるって。

それで斧を使いたいとか、あんた子供なの?

………ん?もうすでに一本折った?

あれ?あんたここで斧買ったことあったっけ?確かそんなはずは………

………ふーん。大通りの新しい店で買ったんだ?

あんたさあ。あの店でいろんな武器買ってるみたいだけど、それ全部壊してるんでしょ?

………安いからってすぐに壊れちゃ意味ないってのわからないの?

モンスターと戦ってる途中で武器が壊れるのが危険ってことくらいわかってる癖に。

………はいはい、そこの店員の笑顔につられたんですね。

どうせ私は愛想がない鍛冶屋ですよ。

けど、いくら愛想がよくたって、いい武器が作れるわけじゃないんだし、安いからって買うのはやめなよ。

………あ、あの店潰れたんだ。

だからってこの店に買いに来たってわけ?

いっとくけど、そんなんで別に値段安くしないからね。

この店はいい武器っていうのがモットーなんだから」




「(カランカラン)

…らっしゃっせー。

…ん、あんたずいぶんとボロボロな格好ね。

………ふうん、迷宮行ってきた帰りなんだ?

あの100年前だか1000年前だかに作られたっていう迷宮でしょ。

何か成果あったの?

…へー、そんなに報奨金出たんだ。すごいね。

だったら、うちの店のツケをそろそろ…

………あっそ、どうせそんなことだろうと思ったけど。

でもいつか、ちゃんと耳を揃えて払ってもらうからね。

…で、ダンジョン帰りってことは、武器のメンテ?

(ドンッ)

…うわー、これはずいぶん派手に使い込んだわね。

毎回言ってるけど、もうちょっと早くメンテナンスに来なさいよね。

あんまりボロボロすぎると、メンテナンスするどころの話じゃなくなっちゃうんだから。

………え?前に別の店でメンテしたの?

なんで?うちの店で買った奴なんだから、メンテだってそれなりにサービス…

………へー、あの貴族がバックについてる老舗のとこで、ね。

別に、あんな歴史が長いだけで腕は良くない所でとか、そんなの思ってないし。

…わかった。あのオーナーでしょ。

いっつもドレス着てて胸がでかくてスタイルがいいオーナー。

あのオーナーになんか言われたからあの店でメンテしたんでしょ?

…ったく、男ときたらすぐにああいう………

………ん?ふーん。

あのオーナー、今はいないんだ。

ま、うちの店に持ってきたからには、ちゃんと元通りの切れ味になるようにメンテナンスしてあげる。

だから、あんまり他のお店に浮気しないでよね」




「(カランカラン)

…らっしゃっせー。

………あ、来た来た。

注文してた武器、できてるわよ。

(ドンッ)

ほら、どうこれ?

長剣として刃の部分は長く、それでいて振りやすいように柄は短く太く。

切れ味は言わずもがな。たいていのモンスターなら一切りで真っ二つにできるわ。

もちろん耐久性も高くて、手入れを怠らなければずっと使える一生もの。

数年ぶりにいい武器ができたと思うわ。我ながらね。

………ふっふっふ。そうでしょ。

絶対あんたなら気に入ってくれると思ってたわ。

じゃあ、はい。

………何って、料金よ料金。

まだ前払い分しかもらってないんだから。

…はあ、あっそ。またツケですかそうですか。

っていうか、そろそろツケ払ってくれないといい加減やばいんだけど………

…あれ?あんたそんな籠手いつもつけてたっけ?

にしてはずいぶんと重そうな………

………

…は?

あー、はいはいあの店ね。宿屋と肉屋の間にできた新しい店。

あの店で買ったんだ?その籠手の防具?

なんでそんな籠手買ってるのよ。

あんたはどっちかっていうと、素早く動いてヒット&ウェイ狙ってくタイプでしょ。

そんな動きが鈍るような籠手つけてたら、剣の動きも鈍っちゃうんじゃないの?

………はあ?美人だったって?

美人だからって何よ。

美人だったらいい武器作れるんなら、私なんか足元にも及ばないでしょうが。

………サービスも良かった?でもそれって…

やっぱ弓矢じゃん。

なんで弓使わないあんたが弓矢もらってんのよ。全然意味なくない?

いらないものを渡すとか、そんなのはサービスとは言わないの。

ちゃんと丹精込めて武器や装備作るのが最大のサービスなの。

商いとして、それ以上のサービスってないと思うんだけど。

………まあいいわ。とりあえずこの剣、持っていきなさいよ。

せっかくあんたのために作ってあげたんだから、簡単に折らないでよね」




「(カランカラン)

―――

―――

―――

………あの店、か。

流石にもう閉まってる時間だよね。

えーっと、裏口は…

………

………

………

(バタン)

…あれ、か………

(スタスタスタスタスタ)

………

…あのー、すいません、ちょっと………

(ブンッ)

(バタン)

…ん、よし、一撃。

さすがこの私が作ったハンマー。

どんなに硬いモンスターだろうと頭をカチ割れるけど、これをまともに食らって立てるはずないわよね。

………ふーん、確かに美人は美人。

でも、所詮顔がちょっといいだけに過ぎない。

………あんたみたいのがあいつにあんな粗末な籠手売るから悪いんだよ。

あいつは危険な場所で戦ってる冒険者。

そんなあいつが少しでも傷つくような装備は付けちゃいけない。

あいつは私が作った最高傑作だけを持っていればいい。

それであいつは最高の状態で戦って、そして最後は必ず勝つの。

だから、あんたみたいな奴らはあいつに武器を売っちゃいけないし、武器のメンテナンスだってさせない。

…安売りの店の従業員は簡単だったけど、あの女オーナーは一苦労したわ。

ただのオーナーなのに外出る時は護衛とか、悪いことしてるって言ってるようなものじゃない。

でも皆いなくなって、あいつが来るのは私の鍛冶屋だけ。

私やあいつの幸せを邪魔するやつらは全員、この私が許さないんだから」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ