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165 リアリストのドライでクールな死神は、仕事の合間に彼と話すのが楽しくなってきて…

「………はぁ。

これで23個目。

ほんま、つかれるわー。

………

………あれ?

お兄はん、もしかしてうちのこと見えてるん?

…おー、やっぱりそやそや。

へー、珍しいなあ。

人間でうちのこと見えてるんなんて。

………うち?

うちはまあ、人間でいうところの死神やねん。

知っとるか、死神?

魂ちょーんってちょん切って持って行ってしまうやつや。

………あー、大鎌なあ。

まあ、持ってる奴もおんねんけんど、ここだけの話あれってけっこう重いやん?

重い割にはそんなに役に立てへんし、うちは持ってないっちゅーだけの話や。

…にしもて、ほんま久々やわあ。

人間と話すのなんて。

…えー、そやなあ。ひい、ふう、みい………

ざっと三百年ぶりくらいやな。

………そやそや。

そらたまにうちのこと見えるやつも時々おんねんけど、でもうち、死神やん?

けったいなイメージもってる奴も多いさかい、あんま話すとかなないねん。

だからこうして長ーく話とるの、お兄はんが最初かもしれへん。

ただ人の魂回収してるさかい、生きてる奴にはなーんにもせんのにな。

………ん、そうそう。魂の回収。

死神はそれを集めるんのがさがやからな。

…あ、魂の方も見えるん?

へー、お兄はん、霊感とかそいうの強いタイプなんやな。

なおのことめずらしなあ。

………んー?いや?

別にこの魂を転生させるとか、そういうのやあらへんよ。

生物は死んだらそこでしまいや。

人間の間には輪廻転生ーとか、神羅万象―っていっとるらしいけど、死んだらそこで終わり。

また別の人間で生き返るとか、次の世代に引き継がれるとか、そういうのはないで。

うちらが魂回収してんのは、あくまでもここに残ってたらまずいもんやからや。

ほら、なんつったかな?

エネルギー保存の法則とかいうの?

死んだ後に残ったものをほっておくと、どんどんどんどんたまってくるからなあ。

いうならゴミ処理っつって言い換えてもいいかもしれんねんな。

今日はもう25個も集めて、くたくたやで。

これでもまだまだやらなあかんねんやから、商売あがったりや、ほんま。

………23個?

あー、そやったかもしれんなー。

ま、とりま、まだまだいかんとあかんねん。

ほな、お兄はん、じゃーなー」




「………あれ、お兄はん?

また会うなんて珍しいなあ。

宝くじで一等当たった気分や。

………ああ、なるほどさかい。

確かに病院つーとこは、死人がよく出るもんやな。

そら、お兄はんと会えたんのも道理や。

………ん、ってことは、お兄はんどっか怪我してるん?それか病気か?

………へー、お兄はんのお姉はんが。

そら心配やわ。

………ん、別に心配くらいしたっていいやんか。

お兄はんの大事な大事なお姉はんなんやろ?

………まあ、でも、みんなみんな、最後には死ぬのは当然のことや。

生きている以上、いつかは死ぬ。

死なないんやったら、それは生きてることやあらへん。

俗にいうゾンビとか吸血鬼っちゅーやつらも、最後には退治されるのが物語のオチや。

不死身なやつらなんて、存在せえへんよ。

………うち?

うちだっていつかはいなくなるやで。

まあ、人間の感覚でいうところの生きてるとはちゃうんやろうけど、死神だってそのうちいなくなるわ。

だってそうでないと、生きてることにならへんやろ。

生きてるからこそ、いつか死ぬからこそ、存在意義が生まれて、いつか死ぬっちゅーもんや。

存在意義がなかったらここにいる意味なんてあらへん。

………ま、それが魂の回収なんて、けったいな仕事やとしてもな。

………

…あ、またや。

じゃ、お兄はん、うち仕事行ってくるさかい。

またなー」




「………こーしてお兄はんと話すも、もう何度目やろな―。

もう両手の指では数え切れへんくらいになってるな。

驚きやで。

………んー。死神同士ではあんまつながりあらへんからなー。

各々あっちこっちで勝手に仕事やって、会うことすらめったにあらへん。

それいうなら、死神見える人間に会う方が多いくらいやな。

だからこんなに誰かと話すんのは、最初で最後かもしれへんの。

ま、お兄はんはまだ生きとるし、最後じゃないやけど。

………

生きてる奴らはみんな死んだらしまい。

その内必ず死んでしまう。

んで、死んだ後には何にも残らへん。

………魂?

あー、魂魂いうても、お兄はんの思う魂とはちゃうと思うんねん。

たとえばほら、そこらへん歩いている黒猫と、車に轢かれで死んだ黒猫。

お兄はんや違うものやと思うとるやろけど、けどそれっていったい何が違うん?

生きてるのと、死んでるの。

動く動かへんの違いはあるけど、根っこのところでは何にも変わらへんやん。

うちらが集めてる魂も同じもんや。

そら、いっこいっこよーく見れば違いはあるんねんけど、他の魂と一緒くたにしたらどれがどれなんていうのはわからへん。

落ちとる石を拾ってその形を覚えたとしても、一回地面落っことしたら他の石とは区別なんてつかへんのと同じ。

魂つう時点で全然別のもんになってん。

死んだところでなーんにも残らへんねんよ。

うちかて、お兄はんやてね。

………んー、そうなん?

嬉しいこと言ってくれるわー、お兄はん。

まあでも、死神よりも人間が死ぬなんてこと、まずあらへんねんけどな。

お兄はんの言うことにはならへんよ、絶対な」




「………

………

………

………お兄はん。

お兄はん。

お兄はん。

………

…お兄はん、死んじまったわなー。

ま、元々わかってたことさかい。

人間が死神よりも長生きするなんてこと、まずあらへんって。

………

でも、なあ。

うち、お兄はんともっとしゃべりたかったわー。

もっともっと、いろんなこと、話したかったわー。

なんでお兄はん、もう喋らへんねん?

………

………

………

お兄はんの魂。

これは、お兄はんやない。

でも、お兄はんの魂。

………

お兄はん。

お兄はん。

お兄はん。

………

なあ、お兄はん。

お兄はんの魂、うちが持っとっててもええ?

お兄はんやないことはわかってけども。

手放したくないねん。

お兄はんがここにいる、ような気がすんねん。

ええよな、お兄はん。

………

そうかそうか。

そらよかったわ。

なら、これからはずっと一緒にいような、お兄はん」

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