016 街の手紙屋さんはあなたと文通相手の手紙に嫉妬して………
「………はい、今日のお手紙は4通です。
確かにお届けしました。
………いえいえ、これが仕事ですから。お気になさらないでください。
え、お茶ですか。いえいえ、本当に丈夫ですから。
………そうですか。では、お言葉に甘えて一杯だけ。
(ごくごくごくごく)
冷たくておいしいです。
暑い中街中を駆け回っていると、汗も結構かいてますから、体にしみこみますね。
…え、本当だ。恥ずかしい…
(ふきふきふきふき)
………ごちそうさまでした。本当にありがとうございます。
では、私は……
………あ、今度旅行に行かれるんですね。
はい、その間のお手紙はこちらで預かっておきます。
それで、日程の方は………」
「こんにちは、今日もお手紙お届けに来ました。
今日の手紙は、えーっと………2通ですね。
はい、どうぞ。
………?
どうかしましたか?ずいぶんと嬉しそうな顔されてますけど。
………はあ、文通相手の手紙ですか。
あっ、こないだの旅行先で出会って………
ずいぶんと仲がよろしいんですね。
………
…ふーん。その人とそんなことが…
………
…そんなことまで………
………
…あっ、いけない。そろそろ配達に戻らないと。
もっとお話聞いていたかったんですけど、ごめんなさい。
…いえいえ、では。
(タッタッタッ)
(タッタッタッ)
(タッタッタッ)
………
あの人のことは、私の方がずっと前から知ってるのに………
どうして………」
「……今日はこちらになります、どうぞ。
…また、文通相手の方からですか?
………そうですか、嬉しそうですね。
ここのところ、ほとんど毎日ですよね、その人からのお手紙って。
…えっ?…ああ、私が毎日ここに手紙を届けているんですから、当然知ってますよ。
………
…へぇ、そんなことがあったんですね。
………
…ええ、はい。
………
…………………………
………
…え。ああ、聞いてますよ、もちろん。あなたがどれだけその人を大切に思っているのか、それは存分に。
………
あ、いえ、今日は本当にお茶は大丈夫です。
ちょっと今日は急ぎで、色々配達しなければいけないので。
…ええ、それでは。
(タッタッタッ)
(タッタッタッ)
(タッタッタッ)
………
………
………
何とかしなくちゃ何とかしなくちゃ何とかしなくちゃ」
「………えっと、今日はこちらのみですね。
………
どうかしましたか?大きなため息ですけど…
………はい、今日の手紙はそれだけです。それ以外はありません。
…ああ、文通相手からのお手紙ですか。
そうですね、確かもう十日くらいですか、その方からの手紙、来てませんね。
………もちろんですよ。手紙が送られてきたのなら、きちんと私はここにお届けします。
………
確かにちょっと変ですよね。ちょっと前までは毎日だったのに…
でも、きっとなんでもないですよ。
ちょっと忙しくなったとか、いろいろ立て込んでるとか。そういう理由ですって、多分。
………ああ、今日もその相手に手紙、送るんですね。
はい、確かにお手紙お預かりしました。
こちらはちゃんと、その相手にお届けしますので。
では、そろそろ配達に戻りますね。
失礼します。
(タッタッタッ)
(タッタッタッ)
(タッタッタッ)
………
………
………
…ん、ここから誰にも見られない、よね。
さっきの手紙手紙………これだ。
(ビリビリビリビリビリビリ…)
これで良し、と…
………
もうこの手紙は、相手には届かない。
その相手からの手紙も、私は届けない。
二人をつなぐ手紙はもう、破いてしまった。
これで二人のつながりはなくなった。
これで彼は元通り。
前みたいに、私だけに笑顔を向けてくれて、時々お茶をくれる。そんな彼に、戻る。
きっと戻ってくれる。
私だけの彼。
私だけのもの。
これまでも、これからも、それはずっと、変わらない」