表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/269

153 屋敷に仕えるクールなメイドは坊ちゃんがどこにいようと必ず見つけ出す

「坊ちゃん、探しましたよ。

こんな木の下に蹲っていらっしゃって。

早く、屋敷の方に戻りましょう?

皆さんもお待ちかねですよ。

………戻らないのですか?

仕方ありませんね。

よいしょっと。

(ストン)

………はい。私もしばらくここに。

坊ちゃんを連れ戻すように言われているので、坊ちゃんがいないと、私も戻れませんから。

………

…先ほどの件を気になされているのですか?

………ええ、そうですね。

皆さんの前で料理をぶちまけて、お客様のお召し物を汚してしまったのは、少々いただけないかと。

しかしそのくらいの失敗、坊ちゃんの年でしてしまうのは当たり前ですよ。

何なら私だって、坊ちゃんの年くらいの時に…

………まあ、確かに旦那様の機嫌はよろしくありませんね。

ただまあ、今日はあくまでお客様を招いてのパーティーです。

皆さんがいる前では、旦那様も、そうそう野暮なことは致しませんと思います。

なんでしたら、今日はこの後一日、私がずっとそばについていますよ。

それなら、坊ちゃんも安心ではありませんか?

………そうですか。

…ええ、では、そろそろ戻りましょう」




「坊ちゃん、探しましたよ。

こんな中心街の中、何をしていらしたんですか?

………買い物、ですか。

それにしては、荷物を何も持っていないようですが。

今日は坊ちゃんにお客様が来ると、あらかじめ言っておきましたよね?

もうすでに、お客様は屋敷の方を訪ねていらっしゃる頃合いでしょう。

そろそろ帰宅なさいませんか?

………そうですか。

やはり、今日いらっしゃるお客様が気に入らないと、そういうことでございますか?

…まあ確かに、旦那様が決めたお見合い相手が気に入らないというのも無理はありません。

しかし坊ちゃん、旦那様は坊ちゃんのためを思って…

………いえ、そうですね。

確かに旦那様は、ご自身のことを第一に考えておられる。それは確かでしょう。

しかしそれにしたって、坊ちゃんのことをまったく考えていないというわけでもありませんよ。

何も結婚というのは、必ずや愛する男女がするというものではありません。

人々が結婚するのには様々な理由がございます。

結婚するからと言って、必ずその相手を愛する必要などないのです。

………やはり、あの使用人ですか。坊ちゃんが気にしているのは。

年が近くて人当たりが良く、坊ちゃんと仲の良い使用人。

坊ちゃんは、あの使用人に好意を寄せているのでしょうか?

………無言ですか。

しかし、無言というのも時には雄弁にものを語るといいます。

ただ、あの使用人のことでしたら、もう気になさる必要はありませんよ。

あの使用人は、昨日を持って屋敷を出て行ったのですから。

………いいえ、旦那様の命というわけではありません。

あの使用人自らが、自分の意思で出て行ったのです。

おそらくは、坊ちゃんのご迷惑になると察して。

私も一言声はかけてみたのですが、彼女の意思は固かったようで、今はどこへやら…

………

大丈夫ですよ。坊ちゃん。

あの使用人はいなくなりましたが、この私は、坊ちゃんの元を離れたりはしませんから。

未来永劫、坊ちゃんにお仕えする次第でございます。

…では、行きましょうか、坊ちゃん。

………はい?

ああ、確かにこちらは帰り道ではありませんね。

でも坊ちゃんは、どうしても帰りたくないのですよね?

でしたらほとぼりが冷めるまで、街を散策しましょう。

どこに行く時もその隣にて付き従いますわ。坊ちゃん」




「坊ちゃん、探しましたよ。

…やれやれ、こんな山を一つ越え二つ越え海を越えた所に滞在なさっているとは、探し出すのに苦労致しました。

しかし、人の口に戸は立てられませんね。

坊ちゃんの顔はそこそこ周辺地域の住民に知れ渡っていたようです。

何人かに聞き込みをしましたら、目撃したという情報がいくつか。

それを頼りにしていった結果、この家に辿り着いたというわけです。

………ところで、今はここでお一人でお住まいで?

…うーん、それにしては家の広さは十二分ですし、ものの数も、一人暮らしの量ではありませんね。

そしてこの履物を見る限り………

ふむ、この地で安寧の時間を過ごしていたようですね。

坊ちゃんが一人寂しく辛く苦しい日々を過ごしていないかと不安になりましたが、そうではなくて安心しました。

………ん?連れ戻しに…?

いえいえ、そのようなことはございません。

それに、今更どこに連れ戻そうというのですか?

坊ちゃんも知っての通り、旦那様やあの家は没落してしまいました。

旦那様が事業に失敗し、お屋敷も土地も、全て借金のカタとして売られてしまいました。

旦那様は蒸発し、今はどこにいるや知る由はないことでしょう。

そんな状況において、坊ちゃんを連れ戻す先などありませんよ。

………ならどうして、と言われましても。

私が坊ちゃんのメイドだからでございますよ。

心に決めた一人に忠誠を誓うのがメイドの勤めでございます。

例えあの屋敷がなくなろうとも、私にとって坊ちゃんは坊ちゃんでしかありません。

坊ちゃんに付き従うと決めた以上、この私の生涯の全てを、坊ちゃんに捧げるのが道理でございましょう。

昨日までは屋敷の後処理に追われていましたが、今日からはまた、精一杯働かせていただきます。

それでは、お掃除の方から始めさせていただきましょうか。

坊ちゃんのメイドとして、ご奉仕させていただきますね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ