149 家に引きこもっているニートの妹は、生活の全てを兄にゆだねている
「(ガチャッ)
お帰り、兄さん。
今日も遅くまでお仕事お疲れ様。
あ、カバン持つよ。
………いいからいいから、私に任せて。
…それで、夕飯はどうする?
………うん。今日は私が作ってみたんだ。
…わかった。それじゃすぐ用意するね。
………
………
………
…おまたせ。
初めて作った料理だから、味の保証はあんまりできないけど…
(………)
…どう、かな?
………そっか、よかったー。
レシピ通りとはいえ、やっぱり実際作ってみるまで味はわからないからね。
…え、そんなことないって。
兄さんの方が全然うまいって。
………あ、うん。
お風呂もちゃんと沸かしてあるよ。
…え、もちろんまだだよ。
一番風呂は兄さんにって思って。
………別にいいっていいって。
私ほとんど家から出ないから、そんなに汚れてないと思うしね。
…もちろんわかってるって。
でも、兄さん家の引きこもりの私ができることなんて、このくらいしかないしさ。
………うん、そう、だね…
掃除とか家事やった以外は、ゲームしたり漫画読んだりしてた。
わかってるはいるんだけど、ね。
兄さんに依存したままじゃダメだってことはさ。
でも、やっぱり、外に出かけたりするのは、ちょっと………
…ううんううん。兄さんが気にしないでよ。
いくら同じ学校の時だって言っても、学年が違うんじゃ、どうしようもないよ。
いじめとかは、どうにもね。
………
…あ、お代わりまだあるけど、食べる。
…うん。わかった。じゃあよそってくるね」
「(ガチャッ)
…ただ、い、ま………
(バタン)
………あ、兄さん。ただいま。
…うん。ちょっと、そこのコンビニまで。
………あー、ごめん。携帯部屋に置きっぱなしだったね。
携帯電話なのに、携帯しなくちゃ意味ないよね、本当。
心配かけてごめんね。
………
…いや、その。
私もそろそろ、一人で出かけられなくちゃいけないかなって。
さすがに、いつもまでも引きこもってるわけには、ね。
………
あ、そうだ。コンビニで、お弁当とお菓子、買ってきたんだ。
…うん、兄さんの好きなやつ。
夕飯、まだでしょ?食べよ?
………
………
………
…最近のコンビニって、色々種類があるんだね。びっくりしちゃった。
棚の前でああだこうだ悩んでたら、あっという間に時間経っちゃったよ。
………うん。私は、これだけで。
あんまり、食欲ないから…
………
………
………
…え、話。
何かな。
やっぱり、最近ちょっと課金しすぎちゃったとか?
でもあれは、欲しかったキャラクターがなかなか………
………え。
…こい、びと………?
…え、だって。兄さんにそんな素振り、今まで一度も…
………へえ、会社の同僚から、告白…
よかったじゃん。
あー、兄さんにもとうとう恋人か―。
でも私も兄さんもいい年ごろなんだし、恋人の一人くらい………
………え………
出て行くって、どういう…
………いや、まだ先の話とかそういうんじゃなくて。
兄さんが出て行くって、どうして?
………
…そ、そんなことないよ。
私はまだまだ、兄さんがいなくちゃ何もできなくて…
えっと、それで、それで………
…とにかく、兄さんが出てくのなんて、嫌だよ、私。
………
…そんな………
………兄さんのわからずや!
(バタン!)」
「(ガチャッ)
………
(カチャカチャカチャカチャ)
………
…んー?
あ、兄さんおかえりー。
(カチャカチャカチャカチャ)
………
…うん、そうだよー。
今日は昼過ぎに起きて、それからずっとこのゲーム。
いやー、なかなかこのボスが手強くてさ。
もう3時間以上同じボスと戦ってるよ。
(ぐ~)
………
…あー、そういえばお腹空いた。
朝から…お昼から何にも食べてない。
あっ。そうだ。
私、兄さんのカレーが食べたいなー。
昔さ、兄さんよく作ってくれたよね。
あの時のカレーの味、忘れられないな。
………やったー。
じゃあ、キリのいいところで止める。
…え、お風呂?
(スンスン)
そんな匂うかな?
かれこれ、1、2、3………一週間くらい入ってないけど、ずっと家の中にいるんだし。そんな匂わないって。
…はいはい。兄さんがそう言うのなら、入ってくるよ。
じゃ、兄さんのカレー、楽しみにしてるね。
(バタン)」
「(ガチャッ)
………
………
………
…んー、兄さん?
どうしたの?私の部屋になんか用?
………
…えー、起きるのだるいよ。
ごはんー?
んー…あんまり食欲ない………
………
そんなことないって。
別に三日くらいご飯食べてなくても、人間死んだりしないって。
ひがな毎日毎日ベッドでごろごろしてるだけなんだしさ。
………じゃあ、兄さん。おんぶおんぶ。
…へへ、やった。
兄さんの背中、あったかいね。
………えー、もう。
はいはい。おとなしく座ってればいいんでしょ。
………うわあ、コロッケだ。
もしかして兄さんの手作り?
…えー違うんだ。
でも、総菜のも総菜ので、美味しいんだよね。
(パクっ)
…おいしー。
………んー?いいじゃん、手づかみでも。
食べ終わったら手を拭けばさ。
………
…お風呂ー?
んー。面倒くさいからパス。
………いいでしょ。別に外になんか出ないんだし。
………
…じゃあ兄さん。私の体、洗ってくれる?
それならお風呂入ってもいいよ。
………やったー。
ありがと、兄さん。
だいすき。
(ギュッ)
………私はさ、兄さん。
兄さんがいないと、何にもできないんだよ。
ご飯は食べないし、お風呂にも入らないし、着替えもしない。
全て、兄さんの手を借りないとできないの。
兄さんはこれからずっと、毎日私の面倒を見るの。
そうじゃなかったら私、一人ぼっちの兎みたいにすぐに死んじゃうから。
兄さんは私に死んでほしいなんてひどいこと、心の中で思ってたりしないよね?
兄さんにとって、私は大切な妹なんだよね?
かけがえのない、ただ一つの存在だよね?
私は兄さんの隣に、恋人がいても彼女がいても、奥さんがいても妻がいてもいい。
子供がいても孫がいてもひ孫がいても全然気にしない。
私はただ、兄さんがそばにいれば、それだけで満足だから。
だからこれからも、たった一人の妹を大切にしてね、兄さん」




