014 勇者を手に入れたいヒーラーは、禁断の相手と取引をして…
「ヒール。
これで勇者のHPが回復、っと…
おーい、回復したから戻って大丈夫だぞー。
…ん。行った行った。
相変わらずあんな大剣、よく振り回せるもんだよなー。
それでいてスピードは獣人族に劣らないんだから、ホント、選ばれし勇者様。
………
ん、おかえりー、魔物全滅お疲れー。勇者含めて、みんな強いよねー。
…ん、私のヒールのおかげ?
べっつにー、私はただあんたたちの後ろで杖振り回してるだけだし、大したことしてないっつーの。
…それでも私がいないとダメ?
…あっそ。ま、あんたにそう言われるのもやぶさかでもなくないし………なんでもない。
で? これからどうするー?
今日はもう暗いし、レベル上げもそろそろ切り上げる感じ?
ん。じゃあそろそろ宿に戻ろうか。
…それにしても、私たちずいぶんレベル上がったよねー。
あんたも最初に会った時はあんなへなちょこだったくせに、ずいぶんガタイもよくなってさ。
ヒーラーのあたしとは大違い。
…別に、私の魔力なんてそんなすごくないって。
そりゃあんたよりは高いかもしれないけど、他の魔女とか賢者様に比べたら全然だって。
所詮、生まれつき両親から受け継いだだけで、あんたたちと出会うまで努力とか鍛錬とか全然しなかったからね。
地力の差が違うんだよ、勇者であるあんたとはね。
…だから全然すごくないっつーの。
ほら、バカなこと言ってないでさっさと宿戻るよ。今日はもう疲れちゃったし。
………
…急に褒めんなっつーの、バカ」
「…って、どこいった? 勇者のやつ。
軍師が魔王との闘いに向けて作戦会議するっつってんのに、どこほっつき歩いてんだか。
………
ん、いたいた。
おーい………って。
…あれは、勇者と姫騎士?
そういえば姫騎士もまだ来てなかったような…
何こそこそしてるんだろう?ずいぶん親しげに話しちゃって。
…ん、勇者が何か渡してる。
あれは…指輪?
姫騎士は、嬉しそうに受け取って…
………
ふーん………
最初の街からずっと一緒だったしね、あの二人。
いつだって、勇者の隣にいるのはあいつで。
街を歩いている時も、ダンジョンにいる時も、魔族と戦っている時も………
そうだよ…私は何を夢見て…
…私が、あの二人に割って入るなんて………
(ガタッ)
ヤバッ。
早くここから離れないと…
(タッタッタッタ)」
「ヒール!ヒール!ヒール!
…ほら、これで三人とも回復!
早く戻って!
…さすがラスボス、魔王。
切っても殴っても魔法当たってもHPがほとんど減らない…
しかも周りでアンデット族の配下が倒しても倒しても復活する…
ん…姫騎士だ。
ヒール!
OK!HP減ったらまた戻ってきて!
…でも、こっちは何とか勇者を中心としたコンビネーションで配下を退けつつ、少しずつだけど魔王のHPを削っていく…
さすがの勇者様とその御一行様だねー。
最初はたくさんあった魔王のHPも、あと残りわずかか…
………
魔王を倒せば世界に平和が訪れる。
平和が訪れれば、勇者は…私の勇者は…
………
だから、ごめんね。
ヒール!
…ん、これで魔王のHPが全回復っと。
せっかくぎりぎりまで追い詰めたのに、残念だったねー。
うわ、みんな驚いた顔してこっち見てるし。
ま、そりゃそうか。
…んー?何で魔王のHPを回復したかって?
それが魔王との取引だったからねー。
ギリギリになってから魔王のHPを回復すれば、メンタル的にギリギリの勇者たちに反撃の目はない。
しかもヒーラーのあたしが裏切ったりしたら、HPの回復だっておぼつかない。
魔王の勝利は確定だってわけ。
…ん?魔王に寝返ったのかって?
いやいや、寝返ってなんかないって。言ったでしょ取引だって。
魔王のHPを回復してあげる代わりに、魔王から対価をもらうことになってるの。
…知ってるでしょ、魔王が得意とする古代魔術。
魔王はこれまで幾度となく過去の勇者達に倒されてきたけど、その魂と器を異次元の空間に移して長い時間をかけて回復し、その後再び世界に復活する。
異次元空間は魔王以外にゲートを開くことはできない。
だからこそ魔王を倒すことはできても、復活を妨げることは不可能だった…
対価っていうのはね、その異次元空間に、私と勇者を閉じ込めるっていうことなんだ。
その異次元空間を魔王が使うことはできなくなるけど、魔王に対抗できる勇者をその中に取り込めば、世界は魔王の思うがままになるってわけ。
…どうしてそんな取引をしたか?
…なに?わかんないの?
それはもちろん、勇者と永遠に二人きりになれるからだよ。
異次元空間は、文字通りの異次元。
魔王がそのままゲートを開かなければ、ずっと私は勇者と二人でいられる…
永遠に、二人きり。
私は、勇者さえいれば他に何もいらないの。
軍師も、魔女も、賢者も……姫騎士も、ね。
だから、一緒に行こう?
二人だけの世界に」