139 同じ学校に勤務する同僚教師からのアプローチ。そのアプローチを袖にしていたら僕のとある秘密を…
「………えー、なので、ここの公式には18を代入して………
(キーンコーンカーンコーン)
あ、チャイム。
じゃあ、今日はここまで。課題は次の授業までにやってくること。
号令お願い。
………
………
………
………あ、先生。今授業終わったところですか。
…はい。私もです。
………まあ、それはそうでしょうけど。
先生は、担任のクラスでの授業ですか?
…やっぱり、隣のクラスから出てきましたもんね。
………え?
あー、まあ、私も先生ですけど、でも学校の中だとさん付けで呼べないじゃないですか。
なので「先生」って呼んじゃうんですよね。
…そういえばもうすぐテストですけど、テスト問題、どのくらいできてます?
………やっぱりそうですよねー。私もです。
こうなかなか忙しいと、なかなか手付けられませんよね。
それで結局テスト前に徹夜する羽目になるという………
………いや、それも先生と同じじゃないですか。
先生方の中には毎年同じ問題でテスト作る人もいますけど、でも先生は毎回違う問題作りますよね。
私も先生を見習って、毎回テスト作り直してるんですよ。
…まあ、予定通りの範囲に進まないっていうのもなくはないですけど。
(………)
…あっ、えっと、確か先生のクラスの………
先生の方に用事ね、うん。
(………)
………
………
………
………えらいですね、先生。休み時間なのに生徒の質問にもしっかり答えて。
………いえいえ、私は忙しい時はつい後回しにしちゃいますから。
先生がこういう時に生徒が追い返してること、見たことありませんもん。
本当、先生は先生ですよねえ…
………あっ、そうだ先生。
後でスマホの連絡先、教えてもらってもいいですか。
…いえこの間、ちょっと先生に聞きたいことあったんですけど、先生帰った後で困ってたんですよ。
そういう時のために、連絡先聞いておきたいんですけど。
………えっ?
あー、そうですか。
………いえいえ、こっちも無神経に聞いちゃいました。
そうですよね。
生徒の個人情報には気を遣わなくちゃいけないのに、先生の個人情報を聞いちゃダメですよね、ごめんなさい。
………あ、大丈夫です大丈夫です。
そっちのほうは、まあ何とかなったので。
…はい、はい。ええ、はい。
それでは。
………
………
………
………教えてくれない、か…」
「(キーンコーンカーンコーン)
…ふう、昼休み昼休み。
………あのー、先生、お昼よかったらご一緒に…
(カタカタカタカタ)
(カタカタカタカタ)
(カタカタカタカタ)
って、何してるんです?午後の授業の準備ですか?
………へー、課題用のプリントですか。
珍しいですね。
先生、生徒にあんまり宿題とか出さないのに…
………ああ、宿題じゃなくて、個人に渡すプリントなんですか。
そういえば先生のクラスに、あんまり成績良くない子いましたもんね。
その子のためのプリント、と。
一生徒のためにそこまでやるなんて、本当、先生はえらいですよね。
それじゃあお昼も抜いちゃう感じなんですか?
………あ、コンビニのサンドイッチ。
でも、そういうのじゃ栄養偏っちゃいませんか?
………そうだ。
私今日おにぎり持ってきたんですけど、よかったら食べます?
おにぎりって言っても具に野菜とか色々入ってるんで、サンドイッチよりかは栄養摂れると思いますよ。
………えー、別に遠慮しなくてもいいですって―。
………
…そうですか。じゃあこれは私が食べることにします。
(カタカタカタカタ)
(カタカタカタカタ)
(カタカタカタカタ)
………あ、先生。
ちょっとお願いがあるんですけど。
今度の週末、よければ買い物に付き合ってくれませんか?
私、吹奏楽部の顧問もやってるのは知ってると思いますけど、楽器とか備品とか、週末にいろいろ買いそろえなくちゃいけないんですよ。
しかも私、車持ってなくて。
先生は確か車持っていましたよね。
最悪レンタカー借りるのも考えたんですけど、もしよかったら、車出してもらえないかなーって。
………
…あ、そうなんですね。
………いえいえ、全然。
用事があるんじゃ仕方ないですって。
私の方はレンタカーで何とかしますんで、本当、気にしないでください。
(カタカタカタカタ)
(カタカタカタカタ)
(カタカタカタカタ)
………
………
………」
「(キーンコーンカーンコーン)
………んーん、んー。
しょっと。
今日も一日終わったー。
先生もお疲れ様です。
いやー本当、毎日毎日6時間授業とか、きついですよねー。
学生の頃は何で毎日毎日できてたのか不思議ですよー。
………はい、部活の方はコーチの人に任せちゃいます。
あのコーチの人、かなり熱心にやってくれますから、その分私は楽できています。
先生はどうするんですか?
顧問はやってないですし、残業もないようですし、何ならこの後飲みにでも………
…え、補講?
でもテスト後ならともかく、テスト前に補講なんて………
………へー、成績が悪い子のために赤点にならないように補講ですか。
………
………
………
………ねえ、先生、私知ってるんですよ?
先生が担任しているクラスのある特別な生徒一人のために、プリントとか補講を開いているの。
ちょうど、今日の休み時間に先生に質問しに来てたあの子。
あの子のために、プリントを作って補講してあげてるんですよね?
(―――先生が隠れて付き合っている、あの子のためだけに、ね)
………
…ああ、やっぱり、否定はしないんですね。
何で知ってるのかといえば、これでも私、生徒には結構人気があるんですよ。
色々相談ごとに乗ってあげたり、話し相手になってあげたり。
生徒同士のネットワークってすごいですよね。
私達教員が知らないようなことも、生徒には公然の秘密だったり。
何百人もいるんだから、当たり前かもしれませんけど。
それだけの数がいれば、見てる人は見てるんですよ。
(―――先生が、あの子と仲良さそうに手をつないで歩いているのを)
…あ、その子ちょうど写メ撮ってたみたいなんですよね。
相談を受けるがてら、その写真私もらってまして。
………
…今更否定しても遅いですよ。
別に目撃証言はこれだけじゃないんですから。
先生、他にもいろいろ見られてるんですよ?
それに今度の休日の用事っていうのも、そういうことなんですよね?
………
………
………
………え、お金?
………
………アハハハッ!
いやいやすいません、先生があんまり素っ頓狂なこと言うものですから。
別に脅迫してお金を取ろうなんて、露ほどにも思ってませんよ。
…っていうか、そういうことしそうに見えるんですか?
それはそれで傷つくなー。
傷ついちゃうあまり、このこと誰かにポロっと喋っちゃうかもなー。
(―――そんなことになったら先生はもちろん、あの子も退学ですよね?)
…フフッ。
そうですよね。それは嫌ですよね。生徒想いの先生ですもん。それだけは嫌ですよね。
………え、私の要求は何かって?
いやいやだから、別に先生を脅迫する気とかはありませんって。
………でも、先生もうすうす感づいているんじゃないんですか?
だってあれだけこれでもかってくらいアプローチしてきたんですから、私がどういう目的があるのかくらい、賢い先生ならわかりますよね?
私の目的がわかってるのなら、どう行動すればいいのかくらい、理解してますよね?
………
………ほら、教室であの子が待ってるんですよね?
あの子に会って、どうすればいいのか、よくよーく考えてみてください。
もしこれ以上、私の気持ちを踏みいじるような真似をしたらどうなるか、想像つきますよね?先生?
………
それじゃあ、先生が帰ってくるまで雑用でもやって待ってますから。
なるべく早く戻ってきてくださいね、先生」




