137 クラスでイジメられている僕。委員長はそんな僕のことを気にかけてくれるが本当は…
「(ピチャ…ピチャ…)
………ねえ、君どうしたの?
上半身裸で、そんなにずぶぬれになって…
………そっか。今日も、いじめられてたんだね。
…うん、うんうん。
トイレで、うん…
………水が、か。
とにかくそのままじゃ風邪ひいちゃうよ。ジャージか何かに…
………あ、それも取られちゃったんだ。
じゃあ私のジャージ貸してあげる。
いいっていいって、クラスメイトでしょ。
そのくらいしか、私にはできないし」
「………着替え終わった?
…そう。ちょっと小さいかもだけど、我慢してね。
………ううん。全然全然。気にしてないよ。
むしろクラスの委員長なのに、このくらいしかしてあげられなくて、ごめんね。
でも、もう一か月だっけ?
あの不良とかギャルの子にイジメられるようになったのって。
…そうなんだ。
どうして君をいじめるんだろうね。
………ふうん。きっかけとか、思い当たらないんだ。
でもいじめってそうだよね。
何の前触れもなく始まる精神的暴力。
あの人達も多分、君のどこが悪いとかじゃなくて、なんとなくやってるだけだと思うんだ。
………あ、ごめん。こんなの何の慰めにもならないよね。
いじめられる当人からすれば、どんな理由でもいじめられたくないものだろうし。
もっと私が、委員長としてちゃんとしてあげられたらな。
もしも私がスーパーヒーローだったら、君をいじめてる奴らなんて、すぐにやっつけてあげるのに。
一応先生とかには、色々話してみてるんだけどね。
でもほら、うちの担任って結構な事なかれ主義だから。
あんまり大事にしたくないみたい。
生徒の人一人の人生がかかってるっていうのに、あんまりだよ。
もういっそ、私が直接君をいじめてる奴らに…
………優しいんだね。
こんな時でも、私の心配をしてくれるなんて。
…うん、でもそうだね。
私が何を言ったところで、多分あの人達は何も変わらない。
堅苦しい正論を言っても、『何それ?』って返されて終わりだけだろうし。
むしろ、君へのいじめが大きくなるなんてことも………
…ごめんね。
本当に私が何とかできたらいいんだけど、何にもできなくて。
…そう?
私と話すくらいで心が和らぐなら、いくらでも話すよ。
だって私は、クラスの委員長だもん。
クラスメイトのためだったら、そのくらいなんでもないよ。
あんまり力にはならないかもだけど、私にできることだったら何でも言ってね。
君のためにできることなら私、頑張るから」
「(スタスタスタスタ)
………あ、ここまでで平気?
なんだったら、家まで送ってっても。
…そう?うん、わかった。
それじゃあここで。
また明日。
………
………
………
………うふふ。
あの子の顔、ものすっごく、かわいかった。
心の底から安心しきった表情。
時々見え隠れする好意の感情。
委員長として手を取ってくれる私に、寄りかかってくれている。
―――私が、裏でイジメの糸を引いていることを知らずに。
あの不良も、あのギャルも、本当に単純。
ちょっと感情のベクトルをいじっただけで、あの子のことをいじめ始めた。
私がちょっと些細なきっかけを作っただけなのに、今はもう自分から率先して彼をいじめている。
トイレで水をかけるとか、そんなひどいこと私は何にも指示してないのにね。
他にも物を隠したり、イスに画びょうを置いたり、クラスのみんなでシカトしたり、全部全部、彼らのいじめであり、そして私の思い通り。
そして彼が絶望の底にいる中で、オアシスのごとく手を差し伸べるののがこの私。
イジメられたところにちょろっと声をかけるだけで、彼はもう私の虜。
もし私が糸を引いていたことを知ったら、同じように接してくれるのかな?
まあ、そんなことにはさせないけど。
でもこれで、彼は私のことしか見えなくなる。
私のことだけを考えてくれる。
私に頼って、私と話して、次第に私を好きになる。
もっともっと好きになってもらうためには、もっともっと、イジメてイジメて、底の底にまで追い詰めないと。
私にだけ依存する日も、そう遠くないのかな。
想像するだけで楽しくなってくる。
うふふ。
うふふふふ。
うふふふふふふふふふ」




