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134 元委員長をストーキングしていたら、彼女の家に入ることになって…

「(スタスタスタスタ)

(スタスタスタスタ)

(スタスタスタスタ)

(………ピタ)

―――そこにいるのは誰ですか?

さっきから私の後を付けてきているのはわかっています。

出てこないのであれば警察を………

………

…やっぱり、あなたですか。

毎日毎日ストーキングして飽きないんですか、あなたは?

こんな私をストーキングしなくても、世の中にはもっとキレイな人やかわいい人がいるでしょう。

…いえ、決してその人達をストーキングしろと言ってるわけじゃありませんけれど。

………しかし、いくら元クラスメイトとはいえ、こう毎日帰り道を付きまとわれると、私もいい加減にしてほしいんですが。

クラスメイトのよしみで警察の通報をしないであげてきましたが、そろそろうんざりというものです。

わかっていますか?

ストーカーはれっきとした犯罪行為です。

仮に本当に私が警察に連絡すれば、あなたは犯罪者になるんですよ?

犯罪者の人生がその後にどのくらいの影響を与えるか、想像ができないんですか、あなたは?

………

…ま、そうでしょうね。

クラスメイト時代、あなたは勉強も運動も何もかもダメだった。

取柄なんて何もない、友達の一人もいない一人ぼっちだったあなた。

委員長だった私以外とは、ろくに話ができる人もいなかったですよね。

そんなあなたに、そんな悲観的なことが想像つくわけありませんか。

…あの頃不良グループに目を付けられて、嫌というほどいじめられていて、現実の厳しさを知っているはずなのに。

………ああ、それとも、私が警察に通報しないから甘い人間だとか考えてますか?

私はあなたが想像するような甘い人間ではありませんよ。

現にあなたのいじめだって、ほとんど見て見ぬふりをしましたし。

あなたが話しかけてきた場合にはそれなりの対応をしていましたが、しかしそれだけで私が甘いと優しい人間だと考えるのは実に早計です。

今の私とあなたは、元クラスメイトとはいえ無関係の他人。

情状酌量の余地なんてない。

一度豚箱に入ってしまえば、その後の人生をふいにしてしまう。

それでもあなたはストーキングをやめないというんですか?

………

………だんまりですか。

だからあなたはダメなんですよ。

黙っていればそのうち何とかなる、とか考えているんでしょうけど、黙っているだけで解決することなんて何もありません。

何かを成し遂げるためには、自ら言葉を発信し、行動していかなければ何の成功も手に入りません。

私をストーキングしたからと言って、私があなたの物になるなんてことは決してないんですよ。

仮にあなたが、ごくごく普通のアプローチをかけて来るのであれば、私もそれ相応の対応をするというのにね。

なぜあなたは、ストーキングすることしか頭にないんでしょうか。

何かを手に入れたいというのなら、もっともっとするべきことがあるのではないんですか?

………

………

………

………まったく、仕方のない人ですね。

これは独り言ですが、今日の私はとてもとても疲れています。

これほど疲れていると、ついうっかり、家の鍵をかけ忘れてしまうかもしれません。

それと、私は帰宅後すぐにシャワーを浴びるのがルーティーンです。

シャワーをしている間、扉を開く音には気付かないかもしれませんね。

毎日シャワーにとても長い時間をかけるので、なおさらでしょう。

…それでは、いつまでもストーカーの相手をしているほど暇ではありませんし、そろそろ帰ると致しましょうか。

(スタスタスタスタ)

(スタスタスタスタ)

(スタスタスタスタ)」




「(ガチャッ)

………あーあ。

ついに、やってしましましたね。

シャワーを浴びている間に部屋に侵入するなど、ストーキング以上の犯罪行為です。

ストーキングであればまだ言い逃れのしようもあるのに、不法侵入はさすがにごまかすことはできませんよ?

………何を見ているんですか?

…ああ、私室に使っているこの部屋ですか。

………ふふ。何ですか?

何かこの部屋について、言いたいことでもあるんですか?

………黙っていますが、あなたの言いたいことはわかりますよ。

この部屋は、あなたが住んでいた部屋をそっくりそのまま再現した部屋です。

…いえ正確には、クラスメイトだった頃のあなたの部屋の再現ですが。

机、ベッド、本棚、テレビ…全てあの頃と同じものが揃っています。

カーテンやシーツの色も同じですよね。

さすがに部屋のレイアウトまでは正確に再現できませんでしたが、それでも似た作り部屋を使っているのであの部屋に見えますよね。

私はこれでも記憶力はいい方なので、一度訪れたことがあるあなたの部屋も再現できるくらいには覚えています。

それに見てください、机の上。

教科書やノート、カバンなど、あの頃のあなたが使っていたものです。

イジメによって隠されたり壊されたりしたものですけど、それでも修復すれば今でも使えるようになりました。

どうですか、ノルスタジックな感情がこみ上げて来ませんか?

………

………疑問の表情ですね。

まあいいです。疑問に思うのももっともだと思いますし。

なぜあなたの部屋を再現しているかといえば、私があなたに好意を抱いているからです。

好意を抱いた人間が住んでいた空間に同じように住んでみたいと思うのは、それほどおかしなものではないと思いますが。

…クラスメイトだった当時から、私はあなたに好意を抱いていました。

そうでなければ、教科書やノートを手に入れる必要もありませんよね。

…しかし同時に、私とあなたとでは住む世界が違うとも思っていた。

同じ教室で机を並べていたとはいえ、私は委員長、あなたはいじめられっ子。

決して相いれる存在ではないと思っていました。

あなたは私を頼ることすれ、しかし必要以上に距離を取っていたのが証拠です。

私から歩もうと考えることもなくもありませんでしたが、しかしあなたのいじめられっ子の領域に踏み入るほどの勇気はなかった。

私は臆病な生き物でしかありません。

だからこうしてあなたの部屋を再現して、一緒の空間を共有した気分に浸ることで、自分を慰めていました。

その程度のことしか、できなかったから。

………ですがあなたはまた、私の前に現れた。

ストーキングという形とはいえ、感慨に浸りたい気分にはなりました。

そして今、あなたは私の部屋に、私の領域に入ってきた。

―――ふふ。ふふふ。

このままでは、あなたは私の家に勝手に入ってきた不法侵入者です。

通報すれば瞬く間に牢屋に入ることは確実。

…しかしそれは、あくまで外の世界の話。

私の家から、私の領域から、私の世界から出なければ、あなたは捕まることはありません。

ここにいる限りあなたは自由そのもの。

ただし、外の世界に出てしまったら、あなたの手には手錠が付けられることでしょう。

…いえ、確実に逮捕です。

気付きませんでしたか?マンションの入口に防犯カメラがあったことを。

ここはセキュリティがとてもしっかりしていますからね。

私が通報すれば、即御用です。

そうなりたくないのであれば、どうすればいいかわかりますよね?

ちょうど、あなたの部屋もあることですし、生活にも不自由することはないと思いますよ。

これでも私は、大手企業に勤めるキャリアウーマンですから。

人一人を養う程度のたくわえは十分にありますし。

………では、あなたが選んでください。

この部屋から出るのか、出ないのか。

決めるのは、あなたです」

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