013 慕ってくれるクールな後輩はどこに行こうがいつまでも付いてくる
「センパイ、ちょっといいですか?
今度のプレゼンで使う資料なんですけど、ここの数字って、どこの情報を持ってくれば…
………ふむふむ。なるほどなるほど。
わかりました。ありがとうございます。
………
私、センパイの後輩で本当に良かったって思ってますよ。
この会社に入ってから、センパイが教育係として付いてくれましたけど、もし教育係がセンパイじゃなかったらと思うと……
……いえ、同期の子から話聞くことがあったんですが、他の教育係の人って、色々ダメな人間かすぐ手を出そうとする人ばかりみたいで、センパイみたいな人って貴重みたいですよ。
『できることなら代わってほしい』って、同期の子からも言われたことありますし。
………ま、代わってなんてあげないですけど。
…いえ、こちらの話です。
センパイ自身、自分の仕事で忙しいのにいつもいつも丁寧に教えてくれて、感謝してもしきれません。
………それほどのことですよ。そういうところはもうちょっと自覚した方がいいですよ。
それがセンパイの数少ない欠点の1つです。
これからもずっと、私の先輩でいてくださいね」
「………転職、ですか?
………ああ、あの大きいビルにオフィスがある所ですか。
でもなんでまた、急にそんな話に。
………
へぇ、向こうの会社から直々がスカウトが来た、と。
すごいじゃないですか。
あの会社って、うちと同じ業界ですけど、売り上げがずっと右肩上がりなんですよね、確か。
センパイのスキルを思えば不思議でも何でもないですって。
それで、いつぐらいに転職するんですか?
………2週間後って、それはまた急すぎる話ですね。
………
ふーん、海外の新しいプロジェクトが始まるから、有能な人材をあっちこっちから引き抜いてる、と。
栄転おめでとうございます。
………
…え、不機嫌?私が?
そう見えます?
いえいえ、センパイの出世を心からお祝いしたい気持ち満々ですよ。
なんでしたら、今日の帰りにお祝いでどこかでパーっとご飯でも…
………はあ、転職の準備で忙しいから、無理、と。
ま、わかってましたけど。
ええ、ではまた今度ということで。
………
………
………
…ふぅ、これから忙しくなるかな」
「…はい、今日からよろしくお願いしますね。
前の会社は同業ですが、やはり別の会社に移るとなると仕事もかなり変わってくると思いますし、ご指導ご鞭撻のほど、ご享受いただけたらな、と思う所存です。
一生懸命頑張らさせていただきますので、皆さんのチーム加えていただければ幸いです。
………
………
………
…(ガチャッ)
………ということなので、今日からまたよろしくお願いしますね、センパイ。
……はい?私もここに転職するなんて知らなかったって?
はあ…まあ別に、センパイには言うまでもないって思ったので。
……結構苦労しましたよ。数少ないコネをいろいろ使ったり、足りないスキルや資格を短期間で取らなくちゃならなかったり…
何徹くらいしたかな………ふわぁ………
…え?転職した理由ですか?
理由って、センパイがこの会社に転職したからですけど?
センパイはいつだって私のセンパイですから。
センパイが転職するって聞いた時は驚きましたけど、それならそれで私もここに転職するというだけです。
私はセンパイがどこに行こうと付いていきますよ。
海外赴任になろうが、僻地のオフィスに飛ばされようが、ブラック企業だろうが、懲戒解雇になって非正規雇用になろうが、どこにだって、ね。
センパイはセンパイで、私はセンパイの後輩です。
それは一生、変わらない事実ですよ。
ではあらためて、よろしくお願いします、センパイ」




