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126 見たものを全てを石に変えるメデューサが討伐にやってきた冒険者を石にした理由は…

「(スタスタスタスタ)

………誰かいるのかい?

…ふうん、冒険者か。

たまたまここに迷い込んできたか、はたまた別の何かか…

………へえ、私を討伐にか。

これはまたずいぶんな依頼を受けてきたもんだねえ。

…ん、『こっちを見ろ』だって?

さてはあんた、何も聞かずにここに来たのかい?

ハッハッハッ。

それはなんとまあ滑稽だこと。

私はメデューサ。

見るものすべてを石に変えてしまう化け物。

そんな私があんたの方を振り向いたら、どうなると思う?

瞬く間に石像の完成。

あんたは石になりたいのかい?

その手にどんな武器を持っているかは知らないけど、私があんたを見た瞬間にすべては終わる。

例え魔法を使えるとしても、私が振り向くのを止めるのは不可能だろう。

どうする?

これを聞いてもなお、あんたは私を討伐しようっていうのかい?

(カランカラン)

…そう、賢明な判断だ。

そうやって精々、わが身を大切に逃げ出すといいさ。

………

………

………

…ん、なんだ。まだ諦めてないのかい?

どのくらいの報酬があるかわからないが、諦めないっていうのなら、仕方ない…

………ん、違うのか?

ならどうして、まだそこにいる?

(………)

…これはまた変な質問をするねえ。

まあ確かに、別に私は誰かれ構わず石にしようとは思ってないさ。

知ってるか?石っていうのは案外重いんだぞ。

あちらこちらに石像を置いてみろ。

邪魔くさくてしょうがない。

何せ、片付ける役目は私一人しかいないからな。

そんな無意味なことはしないさ。

自衛目的以外で、石にするつもりなんてない。

………

…ん、そうか。

聞き分けが良くて助かるよ。

それじゃあな、冒険者」




「(スタスタスタスタスタ)

………誰だ。私の眠りを妨げるやつは。

こんな穏やかな陽気で心地よく寝ていたのに…

(………)

…この声、この間のやつか?

あれか?この間の依頼を失敗したから、今度こそ仕留めろってお上からの指令には逆らえなかったとかいうやつか?

………あっそ、違うのか。

ならどうしてまたこんな宝も食べ物もない辺鄙なところに。

………

………は?

ハハッ。

ハーッハッハッハッハッハッ!

いやいや、これが笑わずにいられるか。

私に会いに来たなど、素っ頓狂なことを言いおって。

油断すれば自分が石になるかもしれないのに、変なやつだな。

ともすれば、まだ私を討伐しに来たという方がまだマシだろう。

ハッハッハッ。ハッハッハッ。ハッハッハッ。

………あー、起き抜けによく笑った笑った。

(………)

…ん。そりゃあんた。討伐するなんて依頼は私の力が怖いだからだろう。

目に見たもの全てを石に変える。

もしそんな奴が人に反乱を測ってみろ、

たちまち人という種族は消えてなくなるだろう。

ただまあ、こっちとしてずいぶんと勝手な話だがな。

ただ石に変えるっている力を持っているだけで、忌み嫌われて命を狙われなければならんのだから。

例えばあんただって、剣の一つは持っているんだろう。

人に刺せば容易に命を奪える剣。

そんな剣を持っているのにもかかわらず、お前は命を狙われたりなんかしない。

魔法だってそう。

炎を当てれば誰もが焼け焦げ、雷を打てば誰もが感電死する。

私の目なんて比べ物にならないくらい力を持っているくせに、人間は誰一人として命を狙われず、生きることを許されている。

これを不平等と言わずになんというのさ。

まったく、人間の身勝手さには困ったものだよ。

…っと、悪いね。

変な愚痴に付き合わせちまって。

ここはなーんにもないところだが、あんたが暇だっていうならいくらでもいるがいいさ」




「………ほう。ふーん。そうなのかい。

人間はとかく不思議なものを作り出すねえ。

私には、そのパンとやらが火で焼いたらどうして膨らむのか、さっぱりだよ。

食い物には程遠い存在だから、仕方ないんだろうけどね。

………ああ、メデューサは特に食事は必要ない。

基本的にただそこにいるだけで存在できる。

しかしそれは何もせずとも生きられるということであり、死ねないっていうことでもあるけどね。

………さて、一体私は何才だろうねえ?

数えたことすらないが、あんたより年上なのは確かさ。

…ちなみに聞きたいんだが、動物達も人間と同じものを食うのかい?

………ふうん、食べ物によって違うのかい。

…いや、一昔前、四本足の動物がここに来たことがあってな。

そいつがなぜか私に懐いたんでな。一体あいつはどんなものを食ってたんだろうなと。

………ああ。なぜか知らんが、ことあるごとに私に体を摺り寄せてきてな。

最初はうっとうしいと思っていたんだが、段々それも慣れてきたんだ。

私は頭をなでてやるとかわいらしく鳴いてくれてな。

まるでもっともっととせがんでいるようだったよ。

………そいつか?まあ、死んだということになるのかな。

いつものように頭を撫でてやってる時、つい油断してそいつの方を見てしまってな。

その瞬間に石になっちまったよ。

これまた可愛らしい姿で石になっててな。

幸せそうな顔をしていたよ、そいつは。

………そこら辺の瓦礫に埋まってるんじゃないか?

そいつの石は持ち出した記憶がないからな。

………

…どうしたんだい?急に黙って。

………

…ハッ。なんだいそれは?

優しさなんて、私からは一番遠い言葉だよ」




「(スタスタスタスタスタ)

(………)

…またあんたか。

あんたも物好きだねえ。

何度も何度も、この私に会いに来るなんてさ。

よほど人間の間でハブられてるんだろうねえ。

………冗談さ。

あんたの話を聞いてる限り、そんな奴じゃないってことくらいわかるさ。

………本当に、私のところへ何度も何度も足を運んでくれる。

そしてまた、いつものように話をして、そしてまた帰っていく。

………なんだろうねえ。

あんたといると、心地がいいというか、寂しさが消えてなくなってくる。

こんな感情、四本足の動物が懐いてた時以来だよ。

もっとあんたといたい。

ずっとあんたといたい。

そんなことすら思い浮かんでくる。

………『いつまでもここに通う』、か。

それはまた結構話だが。

だけどな、それじゃあ全然、足りないんだよ。

(ピキッ、ピキッ、ピキッ)

………ああ、ああ。

やっと、やっとあんたの顔が見れた。

あんたは、こんな顔をしていたんだねえ。

想像通り、いや想像以上の凛々しい顔だ。

目、耳、鼻、口、全てが見える。

石になっても、いや、石になったからこそ、はっきり鮮明にあんたのことが見られる。

ずっとずっと見たいを思っていた顔がようやく見られて、こんなに嬉しいことはないね。

四本足の動物を石にした時以上の嬉しさだ。

これでいつまでも、私はあんたのことを見続けられる。

朝から晩まで、起きてから寝るまで、ずっとずっとあんたを見ていられる。

あんたはここにいる。

どこにも行かない。

ずっとずっと、この場所にいる。

石のまま、そのままのあんたが、ここをずっと動かない。

…どこに置いておこうかねえ。

部屋の真ん中か、寝床の脇か、どこに行く時も隣に置くのもいいかもねえ。

いや、引きずるのはさすがに重いか。

これからはずっとあんたと一緒だよ。

喋れない、聞かない、動かないけれど。

その代わり私が一生、愛でてあげるからね」

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