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123 いつも僕の担当になる看護師さんとの入院生活を何度も何度も繰り返している理由とは…

「(コンコン)

…失礼します。

私は、あなたの入院の世話をしていく看護師の…

………って、あら?

(ペラペラ)

やっぱりあなたですか。

また、ここに入院してきたんですか?

………

…もちろん覚えていますよ。

かれこれもう、5回目でしたっけ?

………7回目ですか。

ともかく、5回も7回も入院してくる患者さんくらい、さすがに覚えてしまいます。

…それで?

今回は足を骨折とのことですが、どんな経緯で怪我なさったんですか?

…へー、交通事故に遭って。

よくもまあそれで足だけの骨折で済みましたね。

………はー、いつもいつも運がいいですね、あなたは。

車に当たったならもっと重症になってもおかしくないんですよ。

毎回言ってますけど、もう少し注意力を周りに向けた方がいいんじゃないですか?

今回は軽傷で済みましたけど、次何か遭った時も、同じ軽傷で済むとは限りませんからね。

………またぞんざいな返事ですか。

これでも私はあなたを心配して…

………ああ、そうですね。仕事はしますよちゃんと。

言われなくたって忘れてなんかいません。

…えー、あなたはもう7回目なわけですが、一応規則になっているので、入院にあたっての説明を………」




「(コンコン)

…失礼します。検診の時間です。

体温からチェックしますので、耳、出してください。

(ピッ)

………ふむ、平熱ですね。

ご飯はちゃんと食べられてますか?トイレにはちゃんと行きましたか?

………もう、毎日のことなんですからきちんと答えてくださいよ。

これでもあなたの健康を第一に考えてるんですからね、私は。

トータルで1年ちょっとは入院してるんですから、ちゃんと答えてくださいね。

(カリカリカリカリ)

………しかし、今回が交通事故で、その前が食中毒、確かその前が…

…そうそう、工事現場の資材が倒れてきたんですよね。

あなたもまあ、よくよく不運が続いてますよね。

危険な仕事をしているとか、スポーツの選手の方なら入院を繰り返すのもわかるんですけど、あなたのようなケースはかなりレアです。

何か、疫病神でもついてるんですかね?

一度、除霊か何かなさってみたらどうですか?

………いえ、ここは病院ですので、そういった人にはあまり縁はありませんが…

こう何度も何度も入院を繰り返して、お仕事の方は………

………

…ああ、そうでしたそうでした。フリーランスの仕事でしたね確か。

入院しててもパソコン一つあれば困らないんでしたね。

しかしそれにしたって、病院だと何かと不便じゃありませんか?

こんな大部屋よりも個室の方が仕事に集中できるのでは?

………あ、それもそうですね。

さすがに、個室費用を出せるほどお金があるわけではありませんか。

しかし、いくらお金がないと言っても、あまり仕事に根を詰めすぎないでくださいね。

いくらそこまで大きな怪我ではないとはいえ、あなたは患者さんなんですから。

ここが病院で、私が看護師である以上、ご自分の体を第一に考えてください。

………またぞんざいな返事で。

まあいいですよ。

そんなに夜遅くまで作業しているわけではないみたいですし、そのくらいは大目に見てあげます。

では、薬の時間になったらまた来ますので、それまでゆっくり静養しててください。

それでは」




「(コンコン)

…失礼します。

今日が退院予定日になります。

無事に完治してよかったですね。

予定よりも早い退院になって何よりです。

………は?

いえいえ、別に寂しくなんかありませんよ。

見飽きたあなたの顔をもう見なくて済むと思うと清々します。

…嘘です。純粋に完治が嬉しい限りですよ。

病院として、看護師として当たり前じゃないですか。

………

…改まってお礼とか言わないくださいよ。恥ずかしい。

とにかく、今日で退院なんですから、きちんと荷物の方まとめておいてくださいね。

…そうそう、確か以前、メモリーカード忘れたか何かで、大騒ぎしたことありましたよね。

仕事用のメモリーカードだって言って。

あの時大げさに騒いだ挙句カバンのポケットに入っていたの、忘れてないですからね。

そりゃあ私の方でもチェックはしますけど、もう子供じゃないんですから、自分の荷物くらい自分でチェックしてくださいよ。

もし帰った後に忘れ物が出てきても、届けてなんてあげませんから。

………はあ。

『また来るかもしれないから置いといて』って、どうしてまた入院しに来ることが前提なんですか。

これ以上私の仕事増やさないでください。

まったくもう。

とにかく。

退院おめでとうございます」




「(コンコン)

………ドクター、そろそろ私上がりまーす。

405号室の引継ぎはちゃんと他の人にしておきましたので。

………はい、はい。

それではお先に失礼します。

………

………

………

さて、あの人は今どこに…

(ピッ)

あ、またあそこにレストランか。

退院直後だと、いつもおいしいもの食べに行くのがルーティンなのかしら。

あそこにいるってことは、しばらくは動かないよね。

それなら、準備する時間もたくさんありそう。

んー、でも今度はどうしようかな…。

工事現場で、食中毒で、交通事故で。

あんまり何度も同じ手は使えない。

繰り返し同じだと、不自然を通り越して違和感になっちゃうし。

事故、事故、事故ってきたから、今度は………」




「………

………

………

………やっと出てきた。

でもここじゃあ、さすがに人通りが多いか…

(スタスタスタスタスタスタ)

(スタスタスタスタスタスタ)

(スタスタスタスタスタスタ)

………そろそろ、いいかな。

………

………

………

(ブンッ)

(ボキッ)

(タッタッタッタッタッタッタッタッ)

(タッタッタッタッタッタッタッタッ)

(タッタッタッタッタッタッタッタッ)

………

………

………

…よし、ここまでくれば大丈夫。

ま、ちゃんと腕にクリーンヒットしたし、追ってこられるはずがないんだけどね。

とにかく、これでまた彼は怪我を負った。

怪我を負ったとなれば、また、彼は病院に入院する。

そして、それをまた私がお世話する。

朝も昼も夜も、彼と一緒にいられる。

私がつきっきりでお世話をすれば、その内きっと、私を好きになってくれるはずよね?

あれだけ甲斐甲斐しく、お世話してあげてるんだから。

食事の世話も、着替えの世話も、トイレの世話も。

ふふっ。

また、彼のお世話ができるなんて、嬉しい。

…あ、そうだ。

腕折っちゃったし、電話できないよね。

こっちで救急車、呼んでおかないとね。

…また明日、病院で会いましょうね。

愛しの愛しの、あなた」

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