109 墓前の近況報告で彼女は彼との思い出を振り返る
「(パンパン)
(ぺこり)
………あれからもう5年、か。
君がいなくなってから、もうそんなに経つんだね。
5年で、私たちの町も随分変わっちゃったよ。
学校は統合しちゃうし、商店街はなくなっちゃうし、昔からある公園は住宅地になっちゃった。
…あ、そうだ、これ。
(トン)
君の好きだったチョコレートケーキ。
このお店も、県外に移転しちゃってさ。
買ってくるのに2時間もかかるようになっちゃった。
最初は何も変わらないって思ってたけど、色々変わっていくんだね。
…そうだ、私ね。
君の好きだったゲーム、最近やってるんだ。
剣と魔法で戦ったり、銃で撃ちあったり、無人島で家を作ったり。
ゲームって面白いよね。
画面の向こうに色々な世界が広がっている。
現実ではありえないような登場人物が、奇想天外に世界をかけめぐる。
君がいなかったら、知らなかった世界だよ。
…そうそう。
(コト)
君が何千時間プレイしてたRPG、最新作が出たんだよ。
君はプレイできないかもだけど、ここに置いておくね。
…それでね。
ゲームとか、マンガとかやってる内に、声優のお仕事、やってみたいなって思ったんだ。
君の好きだったキャラクターの声を、今度は私がやってみたくなっちゃって。
それで今、色々と勉強している途中なの。
でも、始めて見たらこれが結構大変で。
歌なんかも歌ってみるんだけど、もう音痴で音痴で。
この間ここで歌ってもらったバンドの人みたいにはいかなかったよ。
君の好きなあのバンドは、きっと君も喜んでくれたと思うけど、私の歌じゃあ、君を喜ばせるのはとっても先みたい。
歌はまた今度、君の好きだったアーティストを連れてきてあげるね。
…色々変わっちゃったものもあるけど、ここは、そんなに変わってないかな。
君が、『神アニメだ』って言ってたアニメの聖地。
主人公が木登りで遊んだ公園とか。
仲間を助けるために不良と戦った河原とか。
ヒロインが飛び降りようとする学校とか。
全部、ここからなら見えるよね。
住宅地の真ん中で元々何もなかった空き地だけど、ここに君のお墓を立ててよかったよ。
…それで、君はそっちで元気でやってるかな?
君は強いから、きっと、一人でも大丈夫なんだろうな。
でも、それだと寂しいと思うから、みんな、君の元に送ってあげたから。
君の家族も、兄妹も、友人も、クラスメイトも、幼馴染も、委員長も、生徒会長も、先輩も、後輩も、先生も、いとこも、はとこも、許嫁も。
全部全部、君の所に送ってあげたから。
皆がいれば、君も寂しくないよね?
…君は今、どんな世界にいるのかな?
剣と魔法の世界かな?
銃と戦争の世界かな?
人魚と海の世界かな?
時間がループする世界かな?
並行世界を旅する世界かな?
戦国時代かな?
平安時代かな?
『異世界転生したい』って言った君を、この手で××してそっちに送ったのは私だけど、きっとどこかの世界には届いているよね?
『憧れの異世界転生』………
私はまだ、君ほどの憧れはないけれど…
でも、君の好きなものは、これからも届けていくよ。
生前、君と話したことは一度もなかったけど、それでも、君の願いは、想いは全部全部、わかっているから。
別の世界に行ってしまった君のことは、今でも好きだから。
何か、欲しいものはあるのかな?
それとも、連れてきて欲しい人とか?
教えてくれれば、きっと、君の下に送り届けてあげるよ。
大好きだった、君のために。
愛しています。
死んでしまって異世界に言った君のことをいつまでもいつまでも、一生、愛しています」




