106 お金が世界で一番大好きなシーフは相棒の彼のことも裏切り続けて…
「(ジャラジャラジャラジャラ)
~~~♪
お金―♪お金―♪お金―♪
今日も大量大量。
さすがに、腐っても王族の側近なだけはあったなー。
こーんな隠し財産、ため込んでたんだからさ。
あたしのお金がふっえる―♪
あたしのお金がふっえる―♪
あたしのお金がふっえる―♪
(ガサゴソ)
………誰?
(………)
おー、あんたか。よくもまあ生きてたね。
落とし穴に落ちて、水流に流されて、大量の護衛に囲まれて命拾いするとか、普段の行いがいいんじゃない?
………えー?何のことかわかんなーい。
別に裏切ったとかじゃないし。ちょーっと背中がぶつかっちゃっただけじゃん。
まあ確かにあそこであんたが騒ぎ起こしてくれたから、もぬけの殻になった城にあたしが簡単に忍び込めたっていうのはあるけどね。
………いいじゃんいいじゃん。
無事にこうして生き残ってんだからさ。
命あっての物種だよ?
…え?なんで?これは分けてあげないよ?
最初に言ったじゃん。
城に忍び込むまではお互いがお互いを利用する。
忍び込んだ後はそれぞれの勝手。
これはあたしが直々に盗んできたんだから、あんたに分ける道義なんてないっつーの。
………わかればよろしい。
ところでせっかく命拾いしたんだし、この後ご飯でも食べてく?
頭と体動かして腹減っちゃってさー。
豪快に肉とか食べたいんだよね。
あ、もちろん。お金は別々だけど」
「………あの金庫を開けるには…
…番号は確か………
………逃走ルートは………
…警備は………
(ガラン)
おっ。お帰りー。
警備の服手に入った―?
………ちゃんとあんじゃん。
ご苦労様。
あと、屋敷の見取り図は?
………ふーん。情報屋ね。
その情報屋大丈夫なんでしょうね?
敵の息がかかっててデタラメなものよこしてくるんじゃ…
…あっそ。大丈夫ならいいよ。
よほどそいつのこと信頼してんのね。
………あたし?
信頼するわけないじゃん。
周りにいるやつらは全部敵。
いつ裏切るかもわからない。
裏切ること前提で行動する。
結果的にそれが一番自分の身を守れる。
そういう風に生きてきてんだから。
これまで集めてきたお金や財宝の隠し場所だって、今まで誰にも言ったことなんてない。
言えば、そいつが絶対に裏切るってのはわかってるからね。
…もちろん、あんたのことだってこれっぽっちも信頼なんてしないし。
利用価値があるから利用しているだけ。
そこんとこ勘違いしないでね。
………つか、あんたもあんたよね。
かれこれ10回以上はあんたのこと裏切って獲物一人占めにしてんのにさ、それでもまだあたしと一緒にいるなんて。
何?あんたドMか何かなわけ?
…はっ!気持ち悪っ。
そんなくさい台詞言ってるバカなのに、何でまだ命があるんだろうね。
(………)
(ドサッ)
…おー、熊肉だー!
街で買ってきたの?
…ふーん。あのおいしい店のやつかー。
………
………
………
…別に、お金は払わないけど?
………
…えっ!ただでいいの?
やったー!
じゃあ、いっただっきまーす!」
「………8、4、2、0、9、5、6、4、2…
…で、最後は1、っと………
(カチャッ)
よし、開いたっ。
これで中のお金は全部………
………え?
からっぽ………?
な、なんで。確かに、この中にあるはずじゃ………
(ブー!ブー!ブー!ブー!)
噓っ!?なんでっ?
鳴らないようにスイッチは切ったはずなのに…
(ガチャガチャガチャガチャ)
(ガチャガチャガチャガチャ)
(ガチャガチャガチャガチャ)
…うわー、なんでー。
今夜警備は薄いって言ってたはずなのに、何十人も護衛がいるしー………
どっかから情報が………
あいつ、だろうな。
とうとうあいつもあたしを裏切るんだねー。
いや、これまでよく続いたっていう方が正しいか…
とりま、ここを何とかしなくちゃだけど、でもこの人数、どうやって切り抜けるか………
(ガチャンッ!)
何?
あ、これ、閃光弾…
(ピカッ!)
目、目が………
(ガシ)
え、ちょっと。だ、誰?
急に引っ張らないで………
(タッタッタッタッ)
(タッタッタッタッ)
(タッタッタッタッ)
………はあ。はあ。はあ。はあ。
もう大丈夫でしょ。いい加減手離して。
…で、何?
なんであんた、あたしのことなんか助けに来たわけ?
………べつに、あれくらいあたし一人で何とかなったし。
………
…あー。中身は空だった。で、あの通り警備が押し寄せたってわけ。
あんたがあいつらに情報流したんじゃないの?
………へー、情報屋がね…
…ま、あんただったら、助けになんか来ないか…
…で、なんであたしのことなんか助けに来たの?
………そうじゃなくて。あたしの状況じゃなく、あんたの理由を聞いてんの。
…またそれ?
『相棒だから』って、またくさいセリフを………
…なんで、なんでよ………
なんであんたはそうやっていつもいつもあたしを助けるのよ。
あたしは何度だって、あんたのこと裏切ってるのに。
一歩間違えたら、死ぬようなことだって何度も………
今日だって当然のように裏切って、獲物を全部一人占めしようしたのに………
なのになんで何事もなかったかのように…
それで、何であたしは、そういう時、あんたが来ることを期待してたの………?
あたしにとって一番大切なのは…お金。
そう、お金。
お金以外ものなんて、いらないのに………
…ごめんね。
(ゴンッ)
またあんたのこと、裏切るから………」
「………あ、起きたー?
おっはよー。
…ああ、これ?
周りにあるのはぜーんぶお金だよ。
あたしがこれまで何年もかけてきた集めてきたお金の山。
盗みを成功させる度、盗んだお金はここにためてあるんだ。
もちろんお金じゃなくて、ありとあらゆる金銀財宝もここにね。
でもまだまだ、こんなんじゃ全然足りない。
世界にはもっともっとお金がある。
それを全部集めるまでは、あたしは盗みはやめない。
………え、そうじゃない?
…ああ、その鉄格子のこと?
何って、見ればわかるでしょ?
あんただって一回くらいは牢屋に入ったことあるんだろうし。
もちろん、あんたをここに閉じ込めておくための牢屋だよ。
………なんでって、そりゃあ、あんたのことが欲しくなったからに決まってるじゃん。
あたしは今でもお金が大好き。お金以上に好きなものなんで他にはない。
でも、お金と同じくらい、あんたのことも欲しくなっちゃったの。
欲しくなったんだから盗まなきゃ、シーフとして生きてる意味ないしね。
………やーだね。
『こんなことしなくても一緒にいる』とか、そんな言葉なんて信じられない。
あたしはお金以上に信じてるものなんてないの。
その牢屋だって、大事な大事なお金を使って頑丈なやつを用意したんだもん。
お金は裏切らない。
でも、人はいつかは裏切る。
あんただって、そのうちいつかは裏切って、あたしの元から離れしまう………
だから、離れないようにその牢屋に入れておくの。
そうすればあんたは一生ここにいてくれる。
あたしの大事な大事なお金の、その隣にいる。
その牢屋の鍵は………ほら、ちゃーんとあたしが持っている。
もしそこから逃げ出したいんだったら………
あたしから盗み出してみなよ。
この世界一のシーフ様からね」




