101 森の外れに住む住人は実は魔女だった。魔女裁判にかけられて火あぶりの刑になり…
「(コンコン)
(バタン)
あら、いらっしゃい。今日も来たのね。
ほら、中に上がって。
………
さっき、パイを焼いたところなんだけど、よかったら食べる?
…わかった。
じゃあそこに座って待ってて。
すぐに持ってきてあげるから。
………
…はい、どうぞ。
…おいしい?
………そう、よかった。
………
今日もいい天気だね。
君はこういう日に、外で遊んだりはしないの?
…そっか。まあ、ずっと遊んでると、暑くなってきちゃうもんね。
………
…ところで、さ。
いつも言ってると思うけど、あんまり、ここには来ない方がいいと思うよ。
………
…うーん。私が嫌っていうわけじゃないんだけどさ。
ほら、君の親とかご近所さんが言ってたりしない?
「森には魔女が住んでいるから近づいちゃダメ」って。
見ての通り、ここは街から離れて森の中にある家。
ここに来てるってバレたら、きっと、君が怒られちゃうと思うな。
………いや、別に、私が嫌っていうわけでは全然ないんだけど。
………え、魔女?私が?
…さて、ね。どうかなー。
………別にからかってるわけじゃないよ。
確かに、私はここに一人で住んでるけど。私は私だもん。
魔女って思うかどうかは、人それぞれだと思うな。
………そっか。
こんな私にも、そう言ってくれるんだ。
君はいい子だね。
あっ。そうだ。
そういえば、この間森で見つけたんだけど………
(ダンダンダンダンッ!)
あれ、誰かな?
ごめん。ちょっと出て来るね。
(バタン)
はーい、どちら様………
(ガシッ)
えっ?
ちょ、ちょっと、いきなりなんですか、あなた達は?
………城の人?
…私に………魔女の疑い?
………
………そうですか。
わかりました。あなた達についていきます。
(………)
…ああ、その子ですか。
………いいえ、全然知らない子です。
どうやら、この森に迷い込んできたみたいで。
誰か、街に送り届けてあげてくれますか?
(………)
…いいえ、違いますよ。
その子の言っていることは何かの間違いです。
信じないでください。
…君も、早くお家に帰った方がいいよ。
(バタン)
(スタスタスタスタ)
………
………
………
………さよなら」
「(ガタンガタンガタンガタンガタン)
………
………何が魔女裁判なの?
私の言うこともろくに聞こうとしないで、一方的に魔女の疑いをかけて………
裁判が終わったら、直後にこれって………
(キンッ…)
鉄の檻。
これに入れられたまま、街の広間に行って、そのまま………
………
………
………
…どうして、こうなっちゃったのかな………
私はただ、静かに暮らしていたいだけなのに…
(ガタン…)
…ん、止まった。
着いたのかな………
(ガシャンッ)
ちょ、ちょっと、あんまり乱暴に…
(ドサッ)
(バサッ)
………眩しい。
やっぱり、街の広間だ。
いろんな人が、いっぱい。
(………!)
(………!)
(………!)
………火あぶりの刑、か。
火あぶりになって、そのまま死んだら無実。
もし生き残ったら、魔女として有罪。
………はあ。
(メラメラメラメラ)
火、点いちゃった。
私の人生も、ここで終わりなんだね…
………
………
………
…最後に、あの子に会いたいよ………
(――――♪)
(………)
………ごめん、ごめんね。
急にこんなところに来てびっくりしちゃったよね。
最後に、君に会いたくなっちゃって。
ダメだなあ、私………
…どうやったって、それは………
私が魔女だから。
魔法を使って、君をこの檻の中に連れてきたの。
………
ごめん。ごめん。ごめん。
…ん?
………ううん。私は魔女だけど、何も悪いことはしてないよ。
確かに、魔法を使ったことがないわけじゃない。
でもそれはね。
森の動物を殺そうとした人や。
川の流れを無理やり変えようとした人とか。
森を伐採しようとした人とか。
そういう人を追い払うためにしか、使ったことないの。
…少なからず、動物のお肉を食べるのはいいかもしれないけど、生態系が全滅するまで獲るのはどうかと思うし。
飲み水を取りに行くのが大変っていいっても、それを飲んで暮らしている動物だっているんだし。
よその国に売るための農作のために、いろんな動物の住処を壊すのはどうかと思ったんだ。
私は、ただ守るためにしか魔法は使ってこなかった。
自分のために使うのは、これが最初で、最後。
………
…確かに、魔法を使えば、ここから出られる。
でも、そうやって魔法を使っても、またいつか、こういう風に魔女狩りに遭ってしまう。
もうそんなのは、こりごりなんだ。
………
…熱いよね。
ごめん、ごめん。
これは、私の最後のわがまま。
君と一緒なら、このまま消えるのも怖くないの。
短い時間だったけど、君と一緒に過ごした時間は、とっても楽しかった。
魔女である私に、普通の人間として接してくれた君。
………本当に、ごめんね。
(ギュッ)
(ボーボーボーボーボー)
(ボーボーボーボーボー)
(ボーボーボーボーボー)」




