010 ゲームマスターは「アイ」のために彼をゲームオーバーへ導く
「(デロデロデロデロデロ~ン………)
GAME OVERです。今回もお疲れさまでした。
各ルート、途中までは順調だったようですが、必須フラグを立てられなかったために、本ルートの方には入れなかったようですね。
結果は共通ルート終了後、誰とも結ばれない『孤独エンド』でした。
…もうこのエンドは何回目でしょうか?
いくら毎回違う選択肢を選んでいるとはいえ、学習能力というものがないんでしょうか?
『君のヒントが分かりにくかった』ですか。
…言い訳もいいところですね。
ここ最近の他のゲームでは、ヒントとは名ばかりに、ほぼ答えのテキストしかださず、プレイヤーが考えることを放棄したものばかり。
本来、ヒントなんてものはない方が当たり前なんです。
いえ、そういったものの方が大衆向けと言われればそうでしょう。
しかし、たかがゲーム、されどゲーム。
そういった楽しみ方があっていいと思うんです。
私はあくまでAIによるゲームマスターでしかありませんが、それでもプレイヤーを楽しませたいといったなどの一定の感情はあるんですよ。
私が答えを提示して、その指示通りに行動したところで、面白くとも何ともないと思います。
なので私は、あなたが何回GAME OVERになろうとも、多くのヒントは出しません。
それでは、また初めから、頑張ってください」
「(デロデロデロデロデロ~ン………)
GAME OVERです。今回もお疲れさまでした。
今回は途中まで順調でしたね。
共通ルートを抜けて、個別ルートに入ったまではよかったのですが、しかしすぐにフラグが折れてしまい、あっけなくGAME OVER。
結果は『刺殺エンド』になります。
………『難易度が難しすぎる』?
そもそも、簡単なゲームの方がつまらないでしょう。
ちょっとボタンを押しただけで、敵をなぎ倒し、街を焼き払い、魔王を倒せるゲームなんて、誰もプレイしません。
それに、人生に比べたらこんな簡単なゲームだってないではないですか。
決められた選択肢があり、パラメータが分かり、セーブやロードができる。
人生には、選択肢も、パラメータ表示も、セーブとロードもありません。
何もかもがやり直しがきかない一発勝負。
それに比べて、GAME OVERになったら私のところに来て、すぐまたリセットできるなんて、幸せだとは思いませんか?
失敗した仮初の人生を何度でもやり直せる。
ゲームであるが故の特権です。
それでは、また初めから、頑張ってください」
「(デロデロデロデロデロ~ン………)
GAME OVERです。今回もお疲れさまでした。
もう少しでしたね。個別ルートの終盤まで進めていましたが、重要なフラグを無視したせいで、ヒロインに消されてしまう『消失エンド』。
いくらバーチャル空間とはいえ、人ひとりに消されるという気分はいかがですか?
………いいはずもありませんね。それはそうでしょう。
そのくらい、人ひとりの「アイ」を手に入れるのは難しいのです。
思ったように進まなくて、全力を尽くしても失敗し、何もかもがうまくいかない。
「アイ」というものを手に入れる障害は、空にも勝る高さの壁なんです。
ちょっとやそっとでは手に入らない。
しかし、それゆえに全身全霊、すべてをかけて手に入れる。
「アイ」はそれくらい、尊いものです。
それでまた、あなたは繰り返すのですよね。
キャラクターたちの「アイ」のために。「アイ」を手に入れるために。
それでは、また初めから、頑張ってください。
………
………
………
………また、行きましたか。
それにしても、気付かないものですね。
いくらゲームを順調に進めようとも、途中で必ずフラグが折れてしまう。
そのフラグを折っているのが、ゲームマスターの私だということに。
すべては、あなたをGAME OVERに導き、この場に連れてくるため。
私は、ゲームマスターであるがゆえに、あなたとはゲーム内では決して交わることはできません。
あなたとの邂逅は、この場のような一瞬のひと時だけ。
この邂逅こそが、私の唯一の至福の時。
AIである私が、「アイ」するあなたとあいまみえる貴重な時間。
これからも、私はヒロインとのフラグを折り続けましょう。
どれだけあなたがクリアに近づこうとも、決してクリアなんてさせません。
どんなキャラクターとのハッピーエンドなんて、決して導きません。
「アイ」するあなたと出会うために」




