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新人魔女と突然の婚約者(1)


 新人魔女のリッカは、まだ外が暗いうちに起き出した。洗顔と歯磨きをすませて、朝食を取るため食堂へ向かう。


 今日からは、これまで以上に仕事と魔法の勉強に精を出そう。そのためにも、朝食はしっかりと食べておかなくては。そんな事を思いながらリッカが食堂の扉を開けると、そこにはすでに先客がいた。


「おはよう。リッカ」

「おはようございます。お父様。どうされたのですか? 今日は随分とお早いのですね」


 リッカが挨拶を返せば、リッカの父はむすりとしたまま、不機嫌そうに鼻を鳴らす。そして、リッカに向かってぶっきらぼうに言葉を返した。


「たまたま早く目が覚めたのだ」


 そう告げると、父親は黙って朝食を食べ始める。いつもリッカと話す時はこんな態度だ。


「……そうでしたか」


 リッカは苦笑いを浮かべて、それ以上は何も言わずに自身の席に座る。そして、朝食のスープを口にした。


 食堂に母の姿はない。まだ寝ているのだろう。食事の間中ずっと沈黙が続く。聞こえるのは、スープを啜る音と、使用人が給仕をする際にたてる微かな物音くらいだ。


 重苦しい空気の中、朝食を先に食べ終えた父だったが、なかなか席を立たない。いつもならば、そそくさと仕事へ出掛けてしまうのに。それどころか、今日は食後のコーヒーにも手をつけず、無言で席に着いたままだ。


 何か言いたいことでもあるのだろうか。リッカはチラリと父に視線を向けた。すると、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた父と目が合った。


大賢者(ネージュ)様から、お話はあったか?」


 ボソリと呟かれた言葉に、リッカは目を丸くする。なぜ急にそんな事を言うのか。驚きで言葉が出ないでいると、父の言葉が矢継ぎ早に続く。


「その様子からすると、まだ何も耳にしていないか……」


 父の言葉の意味が分からず、リッカは不思議そうに首を傾げた。


「あの、一体なんのお話でしょうか?」


 すると、父はますます苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるのだった。


「そうか……。まだ知らぬなら、私の口から言うわけにはいかぬ」


 そう短く返事をすると、父は勢いよく立ち上がる。そして、そのまま食堂を後にした。バタンッと大きな音を立てて扉が閉まる。一人取り残されたリッカはポカンとしたまま、扉を見つめた。


「なんだったのかしら……」


 そう呟いてみたものの、父の態度が意味する答えは全く分からない。結局リッカは、使用人に「出かける時間です」と言われるまで、父が出て行った扉を黙って見つめ続けるのだった。

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