新人魔女と使い魔の特訓(5)
リッカは、フェンに呼びかける。
「フェン! !」
リッカの声に気付いたフェンは、理解したように力強く頷く。そして、すぐさま尻尾を激しく揺らし始めた。すると、フェンの足下に小さな旋風が出現した。そしてそれは、次第に大きな竜巻へと変わっていく。フェンは、その竜巻を魔犬に向かって放った。
しかし、それではまだ足りないらしい。フェンは次の魔法のために、自身の口に魔力を集中させる。そして、リッカの想像を遥かに超える威力の水流が竜巻に向かって放たれた。
水を纏った竜巻は、魔犬を飲み込むとそのまま激しく吹き荒れる。あまりの威力に、リッカはポカンと口を開けたまま動けなかった。魔犬を飲み込んだ水の竜巻は、しばらく魔犬を翻弄していたが、やがて、その勢いをゆっくりと弱めていった。
完全に魔法が消えると、そこには地面に倒れ伏した魔犬の姿があった。気を失っているのか動く気配はない。そのままピクリとも動かない。魔犬が完全に動かないのを確認すると、グリムが声を上げた。
「そこまでや」
グリムの声を合図に、フェンが嬉しそうにリッカの元へ駆けてきた。そして、その勢いのままリッカに飛びつく。飛びついてきたフェンの頭をリッカは優しく撫でた。フェンは、リッカに撫でられて気持ちよさそうに目を細めている。
リッカは存分にフェンを褒めると、ゆっくり地面に下ろした。そして魔犬の元へ歩み寄る。その体を労うようにそっと撫でていると、少しして、グリムのため息が聞こえてきた。
「まさか、これほどとは」
リッカは魔犬を心配そうに撫でながら、グリムに尋ねる。
「グリムさん。この子は大丈夫でしょうか?」
リッカの問いに、グリムはあっけらかんと答える。
「心配しぃな」
そして魔犬の首元にある小さな飾りにポンと前足を添えると、グリムの体が一瞬、大きく光った。光が収まると、グリムは前足をどけた。
するとそれまで動くことのなかった魔犬が、ムクっと起き上がり、ペロペロと自身の体を舐め、毛繕いを始めた。リッカはその様子にホッと胸を撫で下ろしながらも、グリムに尋ねる。
「あの、今のはグリムさんが治癒魔法をかけたのでしょうか?」
リッカの疑問にグリムは事もなげに答えた。
「昨日も言うてんけど、わいは魔法は使えへん」
「じゃあ、どうしてこの子は……」
「わいは魔法は使えへんけど、リゼラルブと繋がっとるからな、ヤツの魔力を借りることができるんや。ほんで、ヤツの魔力の一部をそいつに分けた」