新人魔女と使い魔の特訓(2)
リッカが首を捻りながら工房へ戻ってくると、工房の入り口にグリムの姿があった。
「おはようございます。グリムさん。リゼさんは、今日も何処かへお出かけですか?」
リッカが問いかけると、グリムは頷いた。
「おはようさん。せや。急に城から呼び出しがあってな。エルナ・オルソイも連れて行った」
わざわざ城へ呼び出されたということは、城で何かしら問題でも起こったのだろうか。それにしても、エルナを連れて城へ向かったとは、どういうことだろうか。
「もしかして、エルナさんがマリアンヌ様の元へ戻られるということでしょうか?」
今は、リゼの世話役ということでこの工房にいるエルナだが、彼女の本来の主人は、リゼの姉である、この国の皇女、マリアンヌだ。
マリアンヌ皇女がエルナを呼び戻したのだろうか。
しかし、そんなリッカの予想に反してグリムは首を横に振った。どうやら違うらしい。では一体何なのだろうか。リッカは再び首を捻りながら考えるが、やはり答えは出ない。
悩むリッカをグリムが下からじっと見つめる。リッカは、自分を見つめるグリムの視線に気がつくと、思わず背筋を正した。
リッカが背筋を伸ばしたことを確認すると、グリムはくるりと向きを変えた。そしてまるで揶揄うように尻尾を左右に揺らす。
「何や。気になんのんかぁ? まぁ、あんたにも多少関係のある話のようだがな。……けどまぁ、そら、リゼラルブが受け入れないやろ。せやさかい、今はまだ気にすな。それよりもこっち来ぃ」
まるでリッカには分からない物言いを残したまま、グリムは、リッカを先導するように工房の外へ向かう。グリムの言葉にリッカは怪訝な表情を浮かべながらも、慌ててその後を追う。
工房の庭先には、フェンと似通った体格の魔犬が一匹、ちょこんとお座りをしていた。その首元には、赤い透き通った石の小さな飾り。これはリゼの使役獣たちが付けている飾りだ。
リゼの使役獣たちは、勝手気ままに外にいることはない。リッカは、念のためグリムに確認した。
「グリムさん。あの子はリゼさんの使役獣ですよね?」
「せや。今日はこいつが訓練の相手をする」
「訓練? フェンの相手をこの子がするということですか?」
リッカはフェンと使役獣を交互に見つめる。当のフェンは、目を爛々と輝かせて使役獣を見つめていた。まるで、早く訓練をしたいと言わんばかりに。しかし、魔犬は愛玩的に扱われることが多く、あまり訓練の相手向きではないのである。