新人魔女は、のんびり森で暮らしたい!(7)
「しかし、嬢ちゃん。このデカブツは、どうするよ?」
ジャックスは、えぐれた地面に横たわるヒヤシンを指差した。リッカはさも当然のように答える。
「え? 勿論、持って帰りますよ?」
「……マジで言ってんのか」
ジャックスは唖然としてリッカを見た。すると、リッカは不思議そうに首を傾げた。
「え? はい。ダメなんですか?」
「……いや、いいけどよ。ただ、かなり重そうだぞ?」
「大丈夫ですよ! ここで解体しちゃいますから! ジャックスさんはもうしばらく待っていてください」
リッカはそう言うと、黒焦げのヒヤシンのそばへ行き、風の刃をナイフ代わりに手際よくヒヤシンを解体し始めた。リッカの軽々とした動きに、ジャックスは再び驚きの表情を浮かべた。
リッカの手際は素晴らしく、ものの数分で解体されたヒヤシンは、小さな塊となって籠の中に収まった。リッカは額の汗を拭うと、ジャックスに駆け寄った。
「お待たせしました! 籠がいっぱいになってしまったのですが、これだけでいいのでしょうか?」
「十分だろ。それじゃあ、帰るとするか」
ジャックスはそう言うと歩き出した。リッカもジャックスの後についていく。
しばらく森の中を歩いていると、ふいにジャックスが口を開いた。
「なぁ、嬢ちゃん。一つ聞いてもいいか?」
「はい。何でしょう?」
リッカは笑顔で言う。
「それは、どんな薬草なんだ?」
「これはですね、ヒヤシンと言いまして、花びらには解熱作用があるんです。他にも根は鎮痛剤なんかにも使われていますね」
「へぇー。そうなのか」
「そうなんですよ。でも、そのままでは使えないんです」
「何故だ?」
「まず、熱処理をして表面の毒素を取り除かないとダメなんです。その後で乾燥させて粉末状にしてから使うんですよ」
「なんじゃそりゃ。めんどくさいことするんだな」
「ええ。ですが、とても有用な薬なのです!」
リッカは力説するように言った。その迫力に圧倒されながらも、ジャックスは尋ねる。
「そうか……。ちなみに、そのヒヤシンを使った薬はどれくらいの値段がつくんだ?」
「そうですねぇ……。わたしが聞いた話だと、銀貨二枚以上になるそうですよ」
「ほぉ~。そんなに。しかし嬢ちゃんは、色々とよく知ってるな」
ジャックスは心底感心した。すると、リッカは恥ずかしげに頬を赤らめた。そんな二人の様子を、茂みの中から覗いている影があった。
ジャックスが視線を感じて後ろを振り向く。しかし、そこには誰もいなかった。