新人魔女は、のんびり森で暮らせない?!(3)
半ば怒鳴るようにリッカは決意を宣言する。そんなリッカに、リゼは怪訝そうに眉を寄せた。
「無理をする事はない。君は自由にすればいい」
「いいえ、無理でもなんでもやるしかないんです!」
リッカの言葉に、リゼがその目を細める。
「何故だ?」
リゼの問いにリッカは一瞬言葉を詰まらせた。ゴクリと唾を飲み込み、大きく深呼吸をする。そして、覚悟を決めたリッカはリゼを見据えてはっきりとした口調で言い放った。
「だって、誰にも迷惑をかけたくないんです! 無理をして与えた称号なのに、何の功績も残さずに返上なんてしたら、陛下の面目丸潰れです。陛下にご迷惑をおかけするわけにはいきません! それに家族にだって要らぬ心労を強いることになってしまいます。そんなことはしたくないんです!」
リッカの宣言を黙って聞いていたリゼは「そうか」と静かに呟いた。そして使い魔であるグリムに何やら目配せをする。その顔はまるで悪戯が成功したときの子供のようだった。しかし、それもほんの一瞬のこと。すぐにいつもの無表情に戻る。興奮しているリッカはそんな師の些細な変化になど全く気がつかない。
「好きなことをしてのんびり暮らしたい! でも、それを叶えるために周りに迷惑をかけるのは違うと思うんです! だから称号は返上しません。ギルドの仕事も辞めません。ミーナさんやラウルさんの力にこれからもなりたい! ……それに」
リッカはそこで一度言葉を切り、大きく息を吸い込む。そして、真っ直ぐにリゼを見た。
「それにわたしは、貴方の弟子でいたいんですっ!」
「は?」
間の抜けた音がリゼの口から零れた。しかし、リッカは構わずに言葉を続ける。
「リゼさん。わたしは、貴方に失望されたくないっ! だから次世代を担う賢者だろうがなんだろうが、やってやりますよ! 称号返上なんて絶対にしませんから! なんなら、直ぐにでも大賢者に相応しいと周りに言わせてみせますよ!」
「いや、それは流石に……」
リゼが呆れた表情を浮かべる。興奮状態のリッカはそんな師の困惑などお構いなし。
「だから、これからもわたしをちゃんと見ていてくださいよ!」
リッカは一気にそう言うと「フン」と鼻を鳴らした。
「話はそれだけです。わたしは忙しいので作業場へ戻ります」
リッカはリゼの返事も待たずに工房から飛び出していった。そんな弟子の姿をリゼはポカンと見送る。そして、しばらくそのまま固まっていたが、我に返ると「はぁ?」と大きな声を上げた。