新人魔女は、のんびり森で暮らせない?!(1)
リゼはリッカの怒りが理解できないといった表情で首を傾げている。そんなリゼにリッカは「もう!」と頭を抱えた。
「あの魔道具が噂になったせいで、ミーナさんは今後の売り上げを見越して魔道具を大量注文することになったし、その客層が可愛い物が好きな女性客だから、近くのラウルさんのお店へもセバン目的で行くようになってしまったんですよ! それで今、みんな大変なんですよ」
「何が問題なんだ? どちらも店が繁盛しているということだろう? 良い事ではないか。それに話を聞く限りでは、私のせいというよりも君の功績のように聞こえるのだが? 魔道具もセバンも君が作り出したものだろう」
リゼはさっぱり訳が分からないと言った様子でそう返す。しかし、その返答にリッカは再びワナワナと震えた。
「だーかーらーっ! もとはと言えばリゼさんが、あんな大勢の前でお姉様に魔道具を渡さなければ、今こんなことにはなっていないんですっ! それに何ですか、あの称号! どうしてわたしなんですか? そりゃあ、確かにいつかはリゼさんみたいな賢者になりたいと密かに思ってはいましたよ。でも、称号持ちになんてなったらのんびりと過ごせないじゃないですか! わたしは実習を好きなだけやって魔法の知識を増やしていきたいんです! わたしはわたしの為に時間を使いたいんです! それなのに称号なんて……」
リッカがリゼに食って掛かると、呆れたような表情が師の顔に浮かぶ。
「そのようなこと気にすることはない。君はこれまで通り、好きなようにやれば良いのだ。称号なんてものは、所詮ただの飾りだ」
「そんな! そんな無責任なこと!」
リッカは地団駄を踏む。それを見たリゼは何か考え込むように腕を組んだ。
「……ふむ、そうか。君がどうしても嫌だというのならば、仕方あるまい。陛下や皆の期待を裏切ることにはなるが、称号は返上するがよい」
「え?」
リゼの突然の言葉にリッカは驚き、怒りも忘れて目を大きく見開いた。そんな弟子に構わずリゼは続ける。
「嫌だと言うのであれば仕方なかろう。君は皆の期待が重荷なのであろう」
「そ、それは……」
確かにリゼの言う通りではある。リッカは次世代を担う賢者という肩書の重圧に押しつぶされそうになっていた。しかし、称号を返上したとして、リッカがこれまでのように工房でのんびりと好きなように過ごせるかと問えば、おそらく答えは否なのである。リッカの才能は既に多くの者に周知されてしまったのだから。