新人魔女に重く圧し掛かるもの(8)
結局、リッカは一人で工房へやって来た。作業場へ姿を見せたリッカに早速セバンたちがワラワラと近寄ってくる。
そのうちの一体がクルクルと巻いた羊皮紙の束を何本も持ってきた。それを受け取り確認したリッカは、手早くセバンたちに指示を出していく。リッカが手にしているそれは、ギルドから魔力通信で送られてきた受注書である。どうやらミーナが早速ギルドへ発注をかけたようだった。
リッカとセバンたちが忙しそうに動き回っていると、眠そうな顔をしたリゼが作業場へ現れた。
「騒がしいと思ったら、やはり君か」
ふらふらとした足取りから、徹夜明けで疲れているのだろうことがすぐに分かった。しかしそんな師匠に配慮するどころか、リッカはツカツカとリゼに迫り、持っていた受注書をリゼの顔面に押し付ける。
「これ、どういうことか分かりますか?」
「……知らん。ギルド関連は、工房主である君が勝手にやっている事だろう」
リッカの剣幕に、リゼは煩そうに寝不足顔を顰めてみせる。そんな師匠の態度にリッカはこめかみをひくつかせながら、「リゼさんのせいですよ!」と手にした受注書をさらにリゼへ押し付けた。
「ラウルさんのお店が凄いことになっているのも、ミーナさんから大量注文が入ったのも、わたしがお勉強を増やされそうなのも、ぜーんぶリゼさんのせいですっ!」
「はぁ?」
訳がわからないといった表情を浮かべるリゼに、リッカは畳み掛ける。
「リゼさんが見栄を張って、夜会であんな風にお姉様に魔道具を渡すから!」
リッカはワナワナと肩を震わせ始めた。主の興奮を感じ取ったのか、リッカの影から使い魔のフェンが飛び出してきた。
「リッカ様。どうされたのですか? リッカ様の魔力が焦げたクッキーのような味になっていますよ!」
「魔力が焦げたクッキーとは、また興味深いことを。感情と魔力には何か繋がりがあると言うことか……」
目の前の自身よりも使い魔の言葉に関心を寄せた師に、リッカの怒りは更に膨れ上がる。
「そんな話はしていません。フェンも今は余計なことを言わないで!」
主の剣幕に使い魔は、まるで太刀打ちできない魔物にでも遭遇したようにキャンと一鳴きし、尻尾を丸めながらリッカの影へ再び姿を隠す。触らぬ神に祟りなしと判断したのだろう。
リッカの勢いに、流石のリゼも話を聞くしかないと悟ったらしい。眉間にシワを寄せながらもリゼがリッカを見る。リッカはそんな師匠の視線を真っ直ぐに見つめ返した。