新人魔女に重く圧し掛かるもの(7)
数刻の後、リッカは帰宅していた。その肩は大きく上下しており相当急いだことが窺える。膝に手をつき息を整えていると、そこへ母が通りかかった。
「まぁ、玄関先でみっともない。お客様がみえたらどうするのです」
「す、すみません。お母様」
ロレーヌの小言にリッカは慌てて背筋を伸ばした。そんな娘の姿を母は呆れた表情で見やる。
「まったく。素晴らしい称号を頂いたというのに。貴女は……」
ロレーヌは「はぁ」と深いため息を吐きながら、リッカの前に仁王立ちになる。
「大賢者様の後継として恥ずかしくない振る舞いができるよう、家庭教師を増やした方が良いかしら?」
ロレーヌは貴族女性特有のばっちりと強調された目を吊り上げながら、ジロッとリッカを見る。母の迫力にリッカは顔を引き攣らせながら、情けない声をあげた。
「お、お母様。今は少々急いでおりまして……お話ならまた夕食の時にでも改めて……」
「まぁ! 貴女はまたそうやって話をうやむやにしようとする」
ロレーヌの鋭い指摘にリッカは「うっ」と言葉に詰まる。その様子を見て母は大仰に溜息を吐いて見せた。
「まったく、貴女という人は……。まぁいいわ。夕食の時ね。今日はしっかりとお話致しましょう。分かっていると思うけれど、これは貴女の為なのですよ」
それだけ言うと、ロレーヌはリッカの横を颯爽と通り過ぎる。リッカは母の姿が見えなくなったのを確認してから深い溜息をついた。しかし、のんびりとはしていられない。リッカは急いで二階のエルナの部屋へと向かった。ノックをすれば、すぐに返事が返ってくる。リッカが扉を開けると、エルナは読みかけの本を閉じながら顔を上げた。
「まぁ。リッカさん、そのように息を切らしてどうされたのですか?」
エルナがそう尋ねながら立ち上がり、リッカに駆け寄る。
「先ほどラウルさんのスイーツ店へ行ってきたのですが、凄く忙しそうなのでお手伝いしようかと。でも、薬用スイーツの注文もあって、急ぎ氷精花を取りに工房へ」
気が急いているせいで話を纏められないリッカの背中をエルナは宥めるようにさする。
「まぁ、ラウルさんのお店が? 私もお手伝いに伺おうかしら?」
そう言った途端、エルナの胸元が淡く光出す。エルナはシャラリとペンダントを取り出し見つめると、困ったように眉を下げた。
「お姉様。何かご予定があるのでは?」
「……ええ。そうでした。うっかり忘れておりました」
エルナの忘れ癖は相変わらずのようだ。