新人魔女に重く圧し掛かるもの(6)
「いや。言い過ぎなんかじゃないぞ。うちの目玉商品は嬢ちゃんに作ってもらっているんだ。正直なところ、嬢ちゃんをかなり頼りにしている。なにせ、これからも嬢ちゃんには大量の魔道具を作ってもらうんだからな」
ジャックスの言葉の真意を問うようにミーナを見れば、「近いうちにギルドを通して追加発注を出しておくわ」と商人の顔で言う。そんな二人の態度に「やっとのんびりできると思ったのに」と頭を抱えるリッカに向かって、ミーナが思い出したように「そういえば」と尋ねてきた。
「今日はラウル君の所へは行く予定かしら?」
「はい。セバンの魔石の充填に」
「そう。それなら早く行ってあげた方が良いかもしれないわ。ラウル君のお店も大変みたいよ。以前から人気があったけど、お客さんがまた更に増えてしまって、『手が足りない』『セバンをもう一体増やしたい』って、困っていたから」
ミーナの言葉にリッカが「えっ?」と目を丸くする。
「それは急いだほうがいいかもしれませんね。あの、話を聞いていただいてありがとうございました」
慌てて席を立ち挨拶もそこそこに店を飛び出していったリッカの背中を見ながら、ジャックスが呆れた顔をする。
「大して話を聞いちゃいないんだがな」
「ふふ。そうね。自分でしっかりと解決して前へ進めるところがリッカちゃんの良いところだと私は思うわ。あの子は『次代を担う賢者』という肩書になんて押しつぶされたりしないわよ」
ジャックスはチラリとリッカが出て行った扉に目を向ける。
「そうだな。頼もしいじゃねぇか。きっと腹の子が元気に走り回る頃には、嬢ちゃんみたいになりたいってガキどもがわんさかいることだろうよ」
「そうね。この子もリッカちゃんみたいに何に対しても一生懸命になれる子に育って欲しいわ」
ミーナは幾分大きくなった自分のお腹を優しくさする。ジャックスも「ああ」と同意した。
「だが、嬢ちゃんの性分では、のんびり過ごしたいなんてのはまず無理だろうな」
ジャックスの呆れたような言葉にミーナが首を傾げる。問いたげな視線を向ける妻に、ジャックスは「あぁ」と苦笑交じりに口を開く。
「嬢ちゃんは、実習を好きなだけしながらのんびり暮らしたいんだとよ。だから、人の来ない森の中の工房に就職したいと初めて会った時に言っていたんだ」
「まぁ! ……それは難しいかもしれないわね」
リッカの野望を知ったミーナは、困ったように眉尻を下げつつクスクスと笑うのだった。