新人魔女に重く圧し掛かるもの(4)
「難しく考えることはねぇ。嬢ちゃんはこれまで通り仕事をただ一生懸命にやればいい。それが、リゼの期待に応えることにもなるし、俺たちの為にもなるんだ」
ジャックスはそう言ってニカッと笑う。そんなジャックスに賛同するようにミーナも微笑んだ。
「そうよ。リッカちゃんが色々と頑張っているからこそ、うちの目玉商品も生まれたんだもの。リッカちゃんは、リッカちゃんのやりたいようにやればいいのよ」
ミーナは「ね?」とウィンクした。その笑顔に、リッカの強張っていた顔からは力が少し抜ける。
「……はい」
小さく頷くリッカに二人は満足気に頷いた。
「それにしても、あのスノードーム本当に人気なのよ」
ミーナが言っているのは先日からリッカが作成していた魔道具のことである。夜会の最終日にリゼが婚約者であるエルナへ送ったことで、あっという間に貴族の間に広まったのだ。
リゼからは相変わらずの無茶ぶりを受けたが、幸いにも魔道具はほとんど形になっていたので、リゼとエルナから水晶を回収しそれに精霊を付与してリッカは魔道具を完成させた。完成した魔道具をリゼに渡した際、エルナを驚かせたいので魔道具が完成したことは口外禁止だと固く口止めをされた。魔道具が完成間近であることは、もう既にエルナは知っているのだがと思いながらも、リッカはリゼの指示通りにエルナと顔を合わせても魔道具については何も口にはしなかった。
そして最終日。夜会も終盤に差し掛かった頃に、多くの貴族の注目を浴びながらリゼはエルナに魔道具をプレゼントしたのだ。リゼがパチンと指を鳴らせば、会場の照明が落とされ、リゼとエルナにだけ光が当たる。リゼは「エルナさん、貴女にこれを」と恭しい態度で魔道具をエルナに差し出した。エルナは「まぁ」と驚いた声を上げながら、リゼから魔道具を受け取る。その光景は宛ら、指輪か想いの篭った薔薇の花束を差し出しながら一世一代の愛の告白をしているようだった。
会場からは感嘆のため息が漏れる。エルナも瞳を潤ませながら「とても嬉しいですわ」と頬を赤く染めた。
「それで、こちらは?」
魔道具のことを知っているはずなのに、エルナはリゼの意を汲んでか素知らぬ顔でリゼにそう尋ねた。リゼがエルナに魔道具を起動させるよう促し、エルナがそれに応じる。エルナが魔道具を起動させると、瓶の中では雪が降り精霊によって映し出された二人の思い出が綺麗な絵画のように浮かんでは消えていった。