新人魔女を巻き込んだ師匠の思惑(7)
その証拠に国王は「ほほう」と面白そうに笑っているし、父イドラの眉間には皺が深く刻まれている。エルナに至っては頬に手を当てて困り顔だ。だが、当のリゼは周囲のそんな様子など全く気にすることもなく、使者に向かって話を続けた。
「彼女は、私が最も信頼している弟子です」
リゼがそう言い切ると、会場中の視線がリッカへと注がれる。リッカはまるで刑場に引き出される罪人のような心持ちで完全に俯き、リゼのローブに縋りつく。ぎゅっと目を瞑るが、貴族たちの好奇の目が自身に向けられているのが分かる。大賢者にそれほどまでに言わせる新人魔女とは一体どれほどの者なのか。そんな奇異の視線がリッカにはまるで針の筵のように感じられた。
しかし、リゼはそんな視線など気にも留めずニッコリと微笑んだまま、まるで世間話でもするかのように話を続けた。
「大使は、使い魔というものを御存じですか?」
リゼの問いに、使者は困惑気味に首を捻りながら答える。
「え? ええ。実際に接したことはありませんが……魔力のある者が連れている使役獣の一種かと」
リゼは使者の返答にニコリと微笑むと、再び話を続ける。それはまるで講義でもしているかのような口調で淡々とした説明だった。
「魔力を持たない者からすれば、使役獣も使い魔も獣の形をしており一緒に思えるかもしれませんね。ですが、あれらは全くの別物なのです。使い魔は魔物ではありません。使い魔は術者の魔力から生み出されるものです。己の魔力を強力に固めた魔力体。それが使い魔なのです。いわば、術者の一部。そんな使い魔を有するためには、かなりの魔力量と並々ならぬ知識がなければなりません。それゆえに、使い魔というものはほとんど目にすることがないのです。しかし彼女は……」
リゼの言葉に会場中がざわついた。使者は「まさか……」と呟きながら、信じられないといった顔で呆然とリッカを見る。そんな使者を余所に、国王マリアンヌは面白そうにリッカとリゼを交互に見やった。
「つまり、其方はこう申すのだな? 其方の弟子は、女でありながら膨大な魔力と知識を有する、とても優秀な人材であると」
国王マリアンヌは、まるでこの先の展開を知っているようにニヤニヤとしながらリゼの言葉に合いの手を入れ先を促す。リゼはそんな国王に恭しく頭を下げた。
「はい。我が弟子リッカ・スヴァルトは極めて優秀な魔女であり、使い魔研究に於いては、第一人者と言ってもいいでしょう」




