新人魔女を巻き込んだ師匠の思惑(6)
「リゼラルブ。其方の話はいつもまどろっこしくていかんな。要点だけを伝えよ。大使殿のお国に物申したいのではなかろう? よもや、この場を借りて貴族たちへ苦言を呈したいのか?」
ニヤリと笑いさりげなく援護射撃を入れる国王に、リゼは「これは失礼しました」と頭を下げる。そして改めて使者に向き直る。
「貴国には貴国のお考えがありましょう。私には決して貴国を貶める意図はありません。ただ、我が国に於いては、女性だろうと男性だろうと優秀な者はその能力に見合った役職に就くべきだと、私は言いたいだけなのです」
リゼの訴えに、使者は「うむ……」と唸るように声を出した。周りからは使者と同じような唸り声が小さく聞こえてくる。声の主は、きっとリゼが言うところの古い考えの貴族なのだろうとリッカは思った。
使者はしばらく何かを思案していたようだったが、やがて大きく頷くと「なるほど」と頷いた。
「殿下にそこまで言わせるとは、リッカ嬢はよほど優秀なお嬢様なのでしょうな」
「へっ!?」
突然に話の矛先を自分に向けられ、リッカの口からは思わず変な声が漏れ出た。その声に周囲からクスクスと笑い声が湧き起こる。会場の其処此処に居る令嬢や貴族夫人が口元を隠していることから、笑い声は彼女たちから発せられたものに違いないと分かる。リッカは咄嗟に口を押さえたが、時すでに遅し。周囲の注目がリッカに集まる。母ロレーヌからは一際鋭い視線を向けられ、父イドラと義姉のエルナからは心配そうな視線を向けられた。リッカは恥ずかしさのあまり俯く。
「いえ、わたしなど……」
リッカは消え入りそうな声でそう答える。しかし、リゼがそんなリッカの声を遮り、「ええ」と使者に向かって頷いた。リゼの返答に驚いてリッカが顔を上げると、リゼはこれまでにも何度か見せたことのある気品溢れる満面の笑みを使者に向けている。その笑みに貴族女性たちから黄色い声が上がった。そんな中、リッカだけは頬をヒクリと引きつらせる。これまでの経験から、リゼがこの煌びやかな笑みを見せた時は大抵碌なことがないと知っているからだ。
思わずリゼのローブを引くと、リゼがリッカに視線を向けた。まるで「私に全て任せておけ」と言わんばかりの表情を見せるリゼ。しかしそれを見た瞬間、リッカは思いっきり首を横に振った。何をどうするのかは知らないが、とんでもないことになりそうな予感がする。リッカはそれだけは確実に分かっていた。