新人魔女を巻き込んだ師匠の思惑(4)
「今、我が国では女性も男性と同じように社会進出しております。その最たる例が国王マリアンヌです。国王は女性であろうとも一国を背負う覚悟で、自らその地位に就いたのです。そして私はそんな国王をお支えするべく日々研鑽を積んでおります。私は能力の有無に性別は関係ないと思うのです」
リゼの言葉に、使者が「ほう」と感心したように声を上げた。しかし、そこに感情は含まれていないようにリッカには聞こえた。
「なるほど、殿下は女性も社会進出に積極的であるべきだとお考えなのですな。いや、実に素晴らしい! 我が国でも女性の社会進出には力を入れるべきだとは思うのですがね。これがなかなか……」
使者が大仰に首を振る。しかし、リゼはそんな使者を真っ直ぐ見据えたまま静かに口を開いた。
「人は良くも悪くも人に倣うもの。多くの者の意識を変えることは一朝一夕にはいきません。その実、私が性差の別はないと声高に言ったところで、我が国にも古い考えはまだ残っていますから」
リゼは、残念だと言いたげに大げさに首を振りながらため息をついた。そんなリゼの姿に貴族男性の多くがサッと視線を逸らす。皆、こちらの会話にしっかりと聞き耳を立てていたようだ。しかし、まるで何も聞いていなかったというように突然別の会話をこそこそと始めたりする。そんな周囲の様子に使者がニヤリと笑みを見せた。
「お若い殿下には古い考えのように思えるかもしれませんが、その古い考えが今も人々に根付いているということにはそれなりの理由があるとは思いませぬか? 現に男性である殿下が大賢者という国一番の魔法使いの称号をお持ちなのは、そういった力の差が男女の間にあることを示しているのでは?」
使者はどうしても男性優位の姿勢をリゼに認めさせたいのか、執拗に食い下がる。リゼはそんな使者の挑発的な態度にも表情一つ変えず、淡々と言葉を紡いだ。
「確かに私は大賢者という称号を与えられておりますが、それは単に私がこの国一番の魔法の使い手だからです。決して私が男だからという理由で称号を与えられているのではありません」
リゼはふと視線をリッカに向けた。リッカは突然自分に向けられた視線に、一瞬ドキリとする。リゼの真っ直ぐな視線は、何かを決意したようなそんな力強さを秘めていた。いつの間にか会場中が水を打ったかのように静まり返り、皆がリゼの言葉に耳を傾けているのが分かる。そんな中で、リゼは堂々と言葉を続けた。