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新人魔女を巻き込んだ師匠の思惑(3)

 その時、不意にひらひらと揺れる誰かの手のひらがリッカの視界に入った。顔を上げるとリゼが「大丈夫か?」と尋ねてきた。リッカは慌ててコクリと頷く。


「近頃は忙しそうにしていたからな。疲れが出たのだろう。無理をして今日来ることもなかったのだ。最終日に顔を出せば良いと伝えただろう」


 突然に始まったリゼの公開説教に使者が「おやおや」と目を丸くする。


「皇太子殿下とリッカ嬢は随分と親しい間柄のようですな」


 使者が揶揄するように尋ねる。その言葉には、「エルナという婚約者がいるのに」というある種の嘲りが多分に含まれているように聞こえる。しかし、リゼはそんな揶揄いにも顔色一つ変えない。


「彼女は私の弟子なのです」


 リゼは使者の言葉をきっぱりと撥ね退けた。


「女性のリッカ嬢が、殿下の弟子?」


 使者は信じられないと言うように大げさに目を見開く。その態度は明らかに女性に対する侮蔑の色を含んでいた。大変不愉快極まりないが、使者の態度からはそう思えてならない。リッカは使者の態度にカチンとくると同時に、顔から火が出るのではないかというくらい恥ずかしくなった。女のくせに男に弟子入りなど信じられない。そんな声が聞こえた気がしたからだ。


 リッカは改めて自分は周囲の大人たちに恵まれているのだと痛感した。ジャックスやミーナ、そしてギルド長のオリバー。彼らはリッカがリゼのもとで研鑽を積んでいることについて、眉を顰めたことなどない。それどころか戦力として認めている。それは国王マリアンヌも同じである。そして両親。二人はリッカに貴族女性としてのあるべき姿を求めつつも、今はリゼの工房で働いていることを黙認している。


 そんな大人たちに見守られているためつい忘れがちになるが、自国でも男性優位の考え方はまだまだ当たり前のように根付いている。それが他国ともなれば考えの違いなど理解されないのかもしれない。


「なにか?」


 リゼも使者の態度に何か思うところがあったのだろう。眉間に皺を寄せながら問う。しかし、使者はにんまりと笑い首を横に振る。


「いやいや、国の習慣の違いに少々驚いただけでございますよ。考え方は国によって様々ですからな」


 リッカには使者が遠回しにリゼを否定しているように聞こえた。だが、ここで不用意な事を口にすることはできない。リッカは拳を握り、込み上げてくる感情を抑え込む。そんなリッカの気持ちを知ってか知らずか、リゼは使者を真っ直ぐに見据えた。

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