新人魔女を巻き込んだ師匠の思惑(2)
国王が壇上から降りると再び賑やかな音楽が会場に響き渡り、そこかしこで談笑が始まった。そして会場の前方へ向けて、次第にざわざわと人の波が移動し始める。皆、おしゃべりをしながらも国王や隣国の使者へ挨拶に向かうのだ。こういう場で繋がりを持てるか否か、それが家の発展に大いに影響する。リッカも母に促され、人の波に乗り会場前方へと進んだ。
しかし、ようやく挨拶の順番が回ってきたときには、人の波に揉まれリッカはぐったりとしていた。
「大丈夫ですか?」
リッカの疲労困憊な様子に、リゼの隣に立つエルナが心配そうに声をかける。
「はい、なんとか」
リッカは苦笑いで答えた。しかし、その笑顔もどこかぎこちない。そんなリッカを見て、ロレーヌは何か言いたげに口を開きかけたが、結局何も言わなかった。代わりに小さくため息を吐くと、前を見据えて姿勢を正す。そして一歩前に進み出ると優雅に腰を折った。
「国王陛下、皇太子殿下並びに隣国の大使様。この度は夜会にお招き頂きありがとうございます。心より感謝申し上げます」
ロレーヌが優雅に頭を下げると、その隣でリッカも慌てて頭を下げた。二人を見た国王マリアンヌが優しく微笑む。
「ああ、よく来たな。存分に楽しんでくれ」
それからイドラに視線を移す。マリアンヌの視線を受けたイドラが、見慣れぬ装束に身を包んだ男にロレーヌとリッカを紹介した。
「大使殿。こちらはわが妻ロレーヌです。そして、こちらが娘のリッカです」
イドラの紹介を受けたロレーヌとリッカがそれぞれ腰を折る。
「おお! これはこれは。宰相殿の御夫人に御令嬢ですか。エルナ嬢といい、宰相家の女性は皆お美しいですな。いやはや、羨ましい」
大使が大袈裟に驚いてそれから大きな声で笑う。どうやらこの大使は良く口が回るようだ。ロレーヌが「お上手ですわね」とクスクス笑う。大人たちが談笑する中、リッカだけは顰めた顔を隠すように俯いた。
リッカとて、自身の容姿を褒められればそれなりに嬉しい。しかし、見ず知らずの男にそう言われるのはあまり気分が良いものではなかった。どこか下卑た言葉に聞こえるのだ。しかしそんな思いを顔に出してはならない。ここで不躾な態度を取れば、迷惑をかける相手は両親だけに留まらない。最悪の場合、使者の機嫌を損ねてしまい、外交問題に発展してしまうかもしれないのだから。
大人たちが会話を楽しむ横で、リッカはじっと俯いたまま時が過ぎるのを待っていた。