新人魔女を包む家族の愛(8)
「いえ、お二人ともすっかり仲良くなられたのだなと思いまして」
リッカの言葉にロレーヌとエルナは顔を見合わせた。そして二人同時にクスクスと笑う。
「何を言うかと思えば。当たり前ではありませんか。エルナは我が家の娘なのですから。ですが……貴女も私の可愛い娘ですよ」
当然のようにロレーヌの口から出た言葉にリッカの目が大きく見開かれる。それからすぐに恥ずかしそうに俯いた。ロレーヌはリッカが言葉にできなかった思いをいとも簡単に掬い上げ、包み込んでしまったのだ。リッカの心中を察したエルナも優しく微笑む。そして、ゆっくりと頷いた。
「お義母様はいつだってリッカさんの事を考えておられますよ。もちろん私も」
リッカは俯いたまま「ありがとうございます」と呟く。エルナもロレーヌも微笑むだけでそれ以上は何も言わない。二人の温かな視線を感じながら、リッカは子供じみた態度を取ってしまったことを悔やんだ。しかし、それ以上に胸の内がぽかぽかと温かく、嬉しかった。
三人はそれから他愛のない会話に花を咲かせた。リッカはいつの間にか寂しさも憂鬱な気分も忘れてしまっていた。
しばらくすると、父が言っていた通り、夜会の知らせを携えた使者がやって来た。ロレーヌが慌てず知らせを聞いていたところを見ると、こちらも事前にイドラから知らされていたのだろうと推察された。しかし準備時間は限られている。その後のスヴァルト家は夜会の準備のために賑やかしくなった。
エルナが、先ずは自身の支度を手伝って欲しいと母に願い出た。それはもちろん、夜更かしをしたリッカが少しでも休息を取れるよう配慮してのことだ。リッカは義姉の優しさに感謝しつつ、父に言われた通り、仕事の調整のために再び転移魔法陣を使って工房へと戻った。とは言っても、最近は作業のほとんどをセバンたちに任せているので、簡単に指示をするだけで良かった。さっと指示を出し終えて自室へ戻ると、すぐにベッドに入る。さすがに疲れていたのだろう。目を閉じるとすぐに意識が遠のいていった。
そしてリッカは不思議な夢を見た。内容ははっきりとは覚えていないが、「どうしてこんな事に」と、ひたすらに訴えている夢だった。あまりにも必死に訴えていたのだろう。エルナが呼び起こしに来たとき、リッカの眉間には皺が寄っていた。驚いた義姉に「どうしたのか」と尋ねられたが、夢の内容を覚えていないリッカは上手く答えることが出来なかった。