新人魔女を包む家族の愛(6)
リッカは渋い顔をしたまま、喉まで出かかった「どうして自分まで」という言葉を飲み込んだ。エルナがリッカの心中を察してか、困ったように微笑んでいたからだ。
「ま、まぁ、お姉様のことを思えば、わたしはたった一晩の我慢ですからね。それでお父様にもお母様にも渋い顔をされずに済むのですから、頑張って出席しますよ。それに今回は準備期間がないので、流石にドレス用の生地選びはないでしょうし。それを思えば、実はいつもよりもラクかもしれませんね。ほら、あれほど無駄な時間はないと思いませんか? わたし、ドレス選びは苦手なんです。誰かが見立ててくれたものでも文句なんて言いませんのに。どうして、ドレスというのは年頃になったら自分で選ばなければいけないのでしょう?」
リッカが早口に捲し立てるとエルナは「ふふ」と笑った。そして「そうですね」と頷いた。
「きっと、お洋服が好きな方たちにとっては自分を表現する手段として最善なのでしょう。一着一着にこだわりがあって、他の方が選んだものでは納得できない。年頃になったから自分で選ばなければいけないのではなくて、年頃になったからこそ自分で選びたい方が多いのでしょうね。それはきっと、リッカさんの魔道具に対する思いと同じだと思いますよ。リッカさんは、欲しいと思った魔道具はご自分でお作りになるのでしょう?」
エルナの言葉にリッカは「なるほど」と頷いた。確かに、リッカは魔道具を作る時は自分なりのこだわりを持って作る。その思いが形になって表れるからこそ、魔道具作りは楽しいのだ。それと同じことだと言われれば納得せざるを得ない。いつもこちらが困ってしまう程の熱量で洋服と向き合っている母ロレーヌに対しても、少し共感出来る気がした。
「そうですね。そういうことならお母様のあの熱量は仕方がないのかもしれません」
リッカは苦笑い気味に言う。しかし、だからと言って母のように社交活動に積極的になれるかというと、そういうわけではない。これは各自の性格の問題だとリッカは思う。
「あぁ、でもやっぱり嫌だなぁ。憂鬱です。せめて何か楽しみでもあれば……」
リッカの独り言のような呟きをエルナはただ微笑みながら聞いていた。それからもリッカは「あれが嫌だ」「これが面倒くさい」と貴族の社交についてエルナを相手に朝食の間中、愚痴を溢した。
そうして二人が朝食を食べ終えた頃、身支度を済ませたロレーヌがようやく食堂へ姿を現した。