新人魔女を包む家族の愛(5)
「とは言っても、これから大変になるのだろうけどな」
誰に言うでもなくイドラはボソリと呟いた。その呟きにリッカが首を傾げたところで、丁度朝食が運ばれてきた。イドラは娘二人に食事を摂るように促し、自身は出かける支度をするために席を立つ。食堂の扉へ手をかけたイドラだったが、そこで一度足を止めた。そして、娘たちに視線を向けると静かに口を開いた。
「まだ公になっていないことだが、明日隣国の要人が新国王の即位祝いを兼ねて謁見に来る。それに伴って明日より七日間、王宮にて夜会が催されることになる」
リッカとエルナはイドラの言葉に顔を見合わせた。本来、夜会というものは何カ月も前から周知されているものだ。周知から開催までに時間を置くのは、主催者と参加者双方の準備期間を考慮してのこと。それが、ほとんど事前告知もなく夜会を開催するというのだから、異例中の異例と言える。リッカもエルナもそのような話はこれまで耳にしたことがなかったので、余程急な開催なのだろうと察した。
「公にされていないお話を私共に聞かせてしまってもよろしいのですか?」
エルナが尋ねると、イドラは「構わん」と短く答えた。
「どうせもうしばらくすれば、使いの者が来て知ることになる。エルナは皇太子の婚約者として今日より王宮に留まることになるだろう」
「承知しました。では、そのように支度を致します」
エルナが頷くと、イドラは「うむ」と頷き返した。そしてそのまま言葉を続ける。
「リッカ、お前もだ。お前は王宮に滞在する必要はないが、夜会開催中に王宮へご挨拶に伺うよう伝令があるはずだ。リゼラルブ様は夜会の最終日に顔を出せば良いと仰っていたが、各国の要人も揃う場だ。明日参加できるよう、仕事の調整をしておきなさい」
イドラはそれだけ言うと足早に食堂を後にした。残されたリッカの顔色は本当に悪くなった。
「面倒くさい話を聞いてしまいました。のんびりとしている訳にはいかなくなりましたね」
リッカが眉間に皺を寄せて呟くと、エルナは小さく微笑む。
「マリアンヌ様が御即位されたばかりですからね。隣国へ新体制のお披露目も兼ねているのでしょう。要人がいらっしゃるということですし、夜会開催が直前まで周知されないのは、警護の面を考えてのことかも知れませんね」
エルナの言葉にリッカはため息混じりに頷く。
「そうかも知れません。事を起こそうにも、時間が無ければ何も準備できませんから。ですが……」