新人魔女を包む家族の愛(2)
リッカが頭を下げると、エルナは首を横に振った。
「いいえ。お気になさらず」
「ありがとうございます」
「それよりも、リッカさんは本日はまたお仕事へ行かれるのですか?」
「いえ、さすがに疲れたので本日はゆっくりと休もうかと」
リッカが答えると、エルナは「そうですか……」と少し逡巡した後、口を開いた。
「では、お休みになるのは朝食を召し上がってからにした方がよろしいですよ。お疲れだとは思いますがもうしばらくの間起きていた方が……」
「何かわたしに御用でも?」
エルナの意味深な言葉に、リッカは首を傾げる。エルナはニコリと微笑んだ。
「夜、工房へ行っていたことはお義母様にはお話しされていないのでしょう? でしたら、朝食を食べておいた方が余計なことを言われないかと思います」
リッカはエルナの言葉に顔を引きつらせた。母の厳しい眼差しが思い起こされ、リッカは思わず身震いする。
「た、確かに……。使用人たちに姿を見せておけば、お母様に告げ口されることもないでしょうね」
「皆、自分の仕事をしているだけなので仕方のないことですけれど、無用な波風は立たせないに越したことはありませんから」
エルナは困ったように微笑んだ。
それからエルナはリッカにお茶を勧める。自室に戻っては疲れから寝落ちしてしまうかもしれないと心配しての配慮のようだ。いつもの朝食の時間までには、まだ時間がある。リッカはありがたくお茶に手を伸ばした。
「そう言えば、お姉様にこれを」
リッカは鞄から出来たばかりの水晶人形を取り出した。エルナはそれを受け取ると、不思議そうに首を傾げる。
「これは?」
「例の思い出を投影できる魔道具の依代部分です」
リッカが答えると、エルナは驚いたように水晶人形をまじまじと見つめた。
「まぁ。これが! 可愛らしいですね。これならば女性に人気が出ますよ」
「この部分は、好きな形を購入者にオーダー頂こうかと思っています。その方が、お客様の好みに合うものをご用意できるでしょうから」
リッカの言葉にエルナは「そうですね」と頷く。
「昨夜はこれを作成するために、徹夜を?」
「ああ、いえ。昨夜は別の件で工房へ戻ったのですが、夜中にリゼさんも工房へ顔を出されて色々と話をする流れでこちらの水晶人形も作ることになったのです」
リッカが苦笑すると、エルナは小さくため息を吐いた。
「まぁ、お二人は相変わらずですね。あまりご無理はなさらないでくださいね」
「はい。気を付けます」