新人魔女の使い魔と師匠の使い魔(7)
リッカは眉根を寄せたまま一つ咳払いをして、話を戻した。
「わたしとフェンが食い意地が張っているかどうかは置いておくとして、魔力のことです。リゼさんの魔力はどのような物なのですか?」
リッカが問いかけると、リゼは首を傾げた。
「さぁ。知らん。そんなことはグリムから聞いたこともない」
興味なさげに答えるリゼに、リッカは食い下がる。
「だったら、今、グリムさんに聞いてみましょう。わたし達の魔力の違いが原因かもしれませんから」
リッカの真剣な眼差しをしばらく眺めていたリゼだったが、やがて根負けしたように小さく息を吐くと、仕方がないとでも言いたげに口を開いた。
「グリム」
主の呼びかけに反応するように、リゼの使い魔である白猫がどこからともなく姿を現した。グリムはリゼの足元まで来ると、軽やかにジャンプをして作業場の机に飛び乗る。
「聞いていたか? 私の魔力の味だそうだ」
主の問いかけに、白猫は面倒くさそうに欠伸を一つした。それからコテリと首を傾げる。
「そないなことは分からん」
「どうしてですか?」
真剣な顔をしてリッカが問う。
「どうしてって、わいは物を食べたことがあらへんからな。物の味を知らん」
「え? そうなんですか? でも、どうして?」
リッカは心底驚いたのか目を丸くした。
「何がや?」
「何故、グリムさんは食べ物を食べないんですか? お腹は空かないんですか?」
リッカの言葉に白猫は白けたように鼻を鳴らした。ちらりと視線を移せば、リゼも呆れたような顔をしている。
「使い魔は、腹など減らんのやわ」
「え、だって、フェンは何でもよく食べますよ?」
「そや。それが、わいとアレの違いやないか」
白猫は、まるで出来の悪い生徒に答えを教えるようにビシリと前足をリッカに突きつける。
「使い魔は、主から魔力を供給されれば動けるんや。せやから、活動する上で食事は必要ない」
使い魔の答えを聞いて、リゼは腕を組みながら満足そうに頷いた。さも当たり前だという空気が漂う中、リッカだけが驚きに目を見開いている。
「君の使い魔が物を食べるようになったのは、いつからだ?」
リゼの言葉にリッカはハッとする。
「え? えっと……最初から。確か、わたしがフェンにクッキーを与えました」
リッカの答えにリゼは頷く。
「そうか。その時変わったことはなかったか?」
「うーん。どうでしょう? フェンが喋ったのは名前を与えたから、でしたっけ?」
リッカは、工房へ来たばかりの頃のことを思い出す。