新人魔女の使い魔と師匠の使い魔(2)
「貴重な時を逃すとは惜しいことをした。私もまだまだだな」
どうやらリゼは、氷精花の開花に立合いたかったようだ。書物にも栽培方法がはっきりとは明記されていない植物なので、確かにその開花にお目にかかれることは稀なのかもしれない。
「また機会がありますよ。栽培に成功はしましたけど、まだ改善点はたくさんありますし、もっと詳しく研究しないと分からないことだらけですから」
「ふむ。まぁ、そうだな。次に期待しよう。だが……」
そこまで言ってリゼは口を噤む。その続きが気になってリッカは首を傾げた。
「何か気になることでも?」
「いや、私の知らないことを君が知っているという状況がなんとも……」
「あはは。何ですか、その負けず嫌いは」
リゼの憮然とした様子にリッカは思わず笑い声を漏らす。
「心配しなくても、わたしなんかじゃ大賢者様にはまだまだ敵いませんよ」
リッカがニヤニヤとからかうような笑みをリゼに向けた。そんなリッカにリゼはふんと鼻を鳴らす。
「……今はまだ……な」
リッカのような新人魔女が、どうすれば大賢者を超えるというのか。何故だか自身に対して対抗心を燃やしてくるリゼにリッカは苦笑いを浮かべる。リゼの対抗心にはとりあえず気が付かないふりをして、リッカは話題を変えた。
「そう言えば、リゼさんに確認してもらいたいものがあるんですよ」
「なんだ?」
リッカは置いていた木箱の蓋を開け、中から数体の水晶人形を取り出した。
「例の魔道具に組み込む水晶の試作品です。リゼさんが提供してくださった水晶ではなく、わたしの手持ちの物で作ってみました。どの形が良いですか? デザイン画を描かれるくらいだから、何かご要望があるんでしょう?」
「え、ああ。……そうだな……」
リゼは思いがけない問いに戸惑った表情を見せた。水晶人形をそれぞれ手に取り、じっくりと見比べる。
「どれも躍動感があって良いな。水晶を加工するのはなかなかに難しい。石工でもこれほど芸術的に掘り出せるかどうか。君にはこのような特技もあったのか?」
リゼの関心は完全に水晶人形へ移ったようで、リッカはホッと安堵しながらリゼの問いに答える。
「いえ。わたしではなくて、これを作ったのはセバンたちなんです。それぞれに作り方に違いがあって、面白かったですよ」
「……なるほどな。魔核を得て個性が出てきたか」
リゼは興味深そうにセバンたちを見る。夜中だというのにセバンたちは休むこともなく動き回っていた。