新人魔女の忙しい一日(8)
テント内を覗くたびに葉の数が増え、成長している様子を確認する事が出来る。花が咲くのも時間の問題だろう。
泊まり仕事になるかもしれないと考えたリッカは、一度屋敷へ戻って食事と仮眠を取った。徹夜の件は母には伝えない。「仕事ばかりして」と、露骨に嫌な顔をされそうだからだ。だが、義姉のエルナには転移魔法陣を借りなければならないので、その旨を伝える。
リッカの体を案じたエルナは、出掛けに薬草茶の入ったポットを持たせてくれた。
(良い報告が出来るように、がんばらなくちゃ)
心配顔で見送る義姉の姿にリッカは気を引き締める。そして、再び作業場へ戻ってきた。
すると、リッカを出迎えるように一体のセバンが転移魔法陣の前で待ち構えていた。
「もしかして変化があったの?」
リッカの問いにセバンはコクリと頷く。それを見たリッカは畑へ向かって駆け出した。勢いよくテント内へ飛び込むと、セバンたちが興奮したようにぴょんぴょんと飛び跳ねている。
「どうし……」
リッカの言葉は途中で途切れた。氷精花の葉の間に蕾を見つけたのだ。よく見ると膨らみは一つではない。
「もうすぐだっ!」
リッカは持ってきた防寒具を慌てて羽織る。それから魔法陣へ魔力の供給をし始めた。魔力切れで雪が降らなくなっては元も子もない。
リッカがテントへ飛び込んでからどのくらい経っただろうか。まだかまだかと蕾を睨みつけていると、月光の柔らかな明かりを受けた氷精花が淡く光りだした。ついにその時がやって来たのだ。リッカは息を詰めてその様子を見守る。
蕾に降り積もる雪をまるで吸収しているかのように蕾は少しずつ膨らみを増していく。どんどんと雪を吸収し水分を目一杯蓄えたらしい蕾は、やがて、満足したとでも言いたげにゆっくりと花弁を開き始めた。キンとして凍りそうなほど冷たい空気の中、氷精花だけが柔らかにその身を広げる。氷雪の花弁が一枚また一枚と開いていく。
時間をかけて徐々に開花したそれは、やがて美しい氷の花となった。まるでガラス細工のような繊細な輝きを放ち、それでいて凛とした芯の強い佇まいで雪の中に咲き誇っている。心を奪うような美しさにリッカは言葉もなくただじっと花を見つめた。この光景を目に焼き付けたいと思ったのだ。
凍りついたように動かないリッカの足を、セバンがくいくいと引っ張る。ハッと我に返ったリッカは、次の行動へようやく移る。
「開花したばかりだけど、早速採取を始めましょう」