新人魔女の忙しい一日(7)
だが、よくよく観察をして見れば、二株の成長具合には差があった。多くの葉を広げているのは、虹の雫を与えていた方の株だ。何も手を加えていない方の株も決して育っていないわけではないが、葉の肉厚具合などは一目瞭然だった。
(採取してみないことには正確なことは分からないけれど、虹の雫が良い方向に作用しているとみて良さそうね)
リッカがそう分析をしたところで、テントの設営が終わったらしく、リッカのもとへセバンたちが戻ってきた。
「ありがとう! じゃあ、雪を降らせます! あなた達は空気の循環を!」
リッカはセバンたちに次の指示を出しながら、テント内に設置されている魔法陣へと魔力を流す。セバンたちはワラワラと遊具の方へ駆けて行った。
しばらくするとテント内にふわりふわりと風花が舞う。セバンたちが遊具を動かし始めたのだ。チラチラと舞い始めた雪でその事が確認できたリッカは、魔法陣に流す魔力を徐々に増やしていく。やがて、テント内に降る雪はその粒を大きくし始めた。地面が薄らと白く染まる頃、ようやくリッカは魔法陣から手を離した。魔法陣はまだ魔力を帯びているため光を放っている。供給分の魔力が無くなるまでは、このまま雪を降らせる事が出来るだろう。リッカは一旦テントの外へ出た。
「ああ、温かい」
テントの中から出た途端に、リッカはその温度差に驚きの声をあげる。
テント内では寒さなど気にならなかった。それだけ集中して作業をしていたという事だろう。
(防寒具は用意しておいた方が良さそうね)
室内の寒暖差に備えての装備を考えながら、リッカはテントの周りを一回りする。隙間から漏れ出た雪が多少はあるが、作業場内に影響が出るほどのことではない。
おおよそ想定通りに作業が進んでいることに安心しながら、リッカはこれから先のことを思い浮かべる。
雪が降った次の日に花の採取ができると言うことは、しばらくの間雪が降り続く必要があるはず。もう一度くらい魔法陣への魔力供給が必要かもしれない。栽培研究なのだから、もちろん氷精花の成長過程も確認したい。
(だけど、何度も出入りをしていたらテント内の温度が保てないだろうし……覗き窓をつけるか、テントを透明に出来ないかを考えた方が良さそうね)
栽培研究における改善点を考えながら、リッカは六体のセバンたちと代わる代わるテントへ入り、氷精花の成長を見守った。
雪を降らせ始めてからの氷精花の成長は、思った以上に早かった。