新人魔女の忙しい一日(6)
魔道具の基本的な構造は、既にミーナへ納品を済ませた既製品と変わらないので、リッカは迷う事なく作業を進めていった。木片を加工したり魔法陣を施したりして、程なくしてリゼとエルナ用の台座と、フェンとグリム用の台座を作り上げた。それをそれぞれ瓶の中に入れてしっかりと固定する。後はこれに精霊を付与した水晶人形をはめ込めば完成である。
「これでよしっと」
リッカは完成した魔道具を見て満足そうに頷いた。それからふぅと息を吐いて、大きく肩や首を回す。こんを詰めて作業をしていたためにすっかり凝り固まった体をほぐしていると、セバンたちがワラワラと集まってきた。
「あら? どうしたの?」
セバンたちはソワソワと落ち着かない様子で飛んだり跳ねたりする。リッカの手や足を引っ張る者もいて、皆で何かを訴えかけてくる。
「何かあったの?」
リッカが問いかけると、セバンたちは一様にうんうんと首を縦に振る。「あっちを見て」とでも言うように短い手で指し示す先には畑があり、ようやくセバンたちの訴えを悟ったリッカは慌てて畑へ向かう。
氷精花の畑の前では二体のセバンが殊更激しく飛び跳ねていた。氷精花の世話担当のセバンたちだろう。
「い、いつの間にこんなに……」
リッカは驚きの声を上げた。一体いつからこの状態だったのか。つい先日まではほんの小さな芽が土から顔を覗かせる程度だった。今日だって、作業場の掃除をしていても畑の変化には気が付かなかった。それなのに、今目の前には植物の葉が青々と茂っている。
「あなたたちが、やったの?」
リッカの問いかけに氷精花担当のセバンたちはフルフルと首を横に振る。どうやら植物の急成長に彼らは関係ないようだ。
一体いつの間にこんなにも成長したのかとじっくり聴き取りをしたいところだが、今はそれどころではないだろう。
「みんな、急いでテントを降ろして! きっと今からが勝負よ!」
リッカは慌ててセバンたちに指示を出す。その声を聞くや否や、セバンたちはスルスルと支柱を登り始めた。
リッカは畑に入り、葉や茎の様子を確認する。まだ花は咲いていないようだ。葉にそっと触れると、触れた部分からジワリと液体が滲んだ。リッカは急いで手を引く。
「溶けると言うことは……」
どうやら氷精花で間違いない。成長したばかりの葉はとても溶けやすいようだ。リッカは植物に触れないように細心の注意を払いながら観察を続ける。葉の量からして、二株とも成長をしている。