新人魔女の忙しい一日(5)
眠そうに欠伸をした後で、口を開いた。
「何や? なんか用か?」
「お願いがあるんですけど」
そう言って、リッカは先程作った水晶人形をグリムの前に差し出した。
グリムにことの次第を話すと、彼は興味深そうに水晶人形をじっと見つめた。
「なるほどなぁ。ほんで、これは使い魔でも動かせるんか?」
グリムがそう問いかけると、リッカは苦笑した。
「それは、やってみないとわからないです。実験も兼ねてということになるんですけど、お力を貸してもらえませんか?」
リッカの真剣な眼差しを受け、グリムは一つ大きな欠伸をしてから体をグイッと伸ばすようにして起き上がる。そして、ニヤリと笑った。
「ま、面白そうやし協力したるわ」
「ありがとうございます!」
「ほんで、どないしたらええんや?」
「フェンのように、身に着けているだけで大丈夫です」
そう言ってリッカはフェンにしたのと同様にグリムの首にも布の袋を取り付けた。
「なんや格好悪いな」
グリムが不満そうに口をへの字に曲げる。
「すみません。しばらくの間だけですから我慢してくださいね」
リッカはそう言ってクスクスと笑った。これまでの付き合いから、なんだかんだ言ってもグリムは付き合ってくれる、そう確信があった。
「次は台座ね」
リッカは水晶人形を設置する台座作りのために作業場へと戻ってきた。
フェンは久しぶりにグリムと魔力の特訓をしたいと言い出し、渋い顔を見せるグリムを半ば強引に工房から連れだして、作業場の外に作られた特訓場にいる。
リッカの魔力から生まれたばかりの頃は、リッカのそばをチョロチョロとしていたフェンだったが、いつの間にか小狼は自身だけの時を過ごす事が多くなっていた。しかし、だからと言って、フェンが主であるリッカを軽んじているというわけではない。今でも、リッカに褒めてもらいたくて影から飛び出してきたりするので、まだまだ甘えん坊である。リッカの魔力から生まれてまだ然程時は経っていないが、きっと、人間で言うところの自立心というものが芽生え始めたのだろう。
リッカは、作業場から見える訓練場を所狭しと動き回る小狼の姿に眼を細める。リッカはフェンの成長が嬉しかった。自身で初めて生み出した使い魔は、自身の半身のようなものだ。使い魔の成長を通して、リッカ自身も成長しているような気がしていた。
(わたしたちはどこまで成長できるのかしらね)
リッカは、これからの未来に想いを馳せながら作業に取り掛かった。