新人魔女の忙しい一日(2)
「まずは水晶だけど……これ、この物体なんだろう?」
リッカは、リゼのデザイン画をしげしげと観察する。いびつな形をした物が二つ並列するように描かれている。ただ水晶の配置を指示した図にしては、その形状はあまりにもいびつで不格好だ。リッカはリゼの描いたデザイン画と試作品の設計図を交互に眺め、そしてハッとする。よくよく観察すればデザイン画の右下に小さく書かれた文字を見つけた。それは『L』と『E』という文字である。
「もしかして……これって……」
ようやくその形状を理解したリッカは、そのデザインに込められた想いに思わず頬が熱くなってしまう。あの堅物な師が、まさかこのようなデザインを思いつくとは予想外だった。リゼは存外乙女チックな思考回路の持ち主だったのだなと、リッカは思わず苦笑してしまう。
「まぁでも、お姉様を想うあの熱量なら、当然と言えば当然なのかもしれないけど」
リッカはリゼがエルナを想ってこのデザイン画を描き上げた様子を想像した。あの大賢者が、この魔道具にどれだけの想いを込めているのかと考えると、その想いを少しでも正確に汲み取れるように心を砕いて作業に取り掛からねばなるまいと決意する。
「これが人型の水晶を配置するという指示だとして……わたしには水晶を彫刻する技術はないのだけど……」
早速、リッカは難題にぶち当たる。
精霊の依り代となる水晶を二つ設置するように設計はしたが、それを加工するなどとは考えもしなかった。リッカはどちらかと言えば効率や利便性を重視した魔道具を作ることを好む。可愛らしさや美しさなどは、二の次三の次。使い勝手が良ければそれで良し。
だが今回の場合は、アイテムの用途的にはファンシー感があっても良いのかもしれない。むしろそういった要素を加味した方が、より一層購買意欲をそそるのではなかろうか。
リッカはデザイン画をジロジロと見つめながら唸る。
「うぅ……でも、わたしのセンスはなぁ……」
可愛らしいデザインにするにしても、リッカにはセンスも技術もない。リッカは作業場の各所に散らばり思い思いに過ごすセバンたちを見つめる。しばし悩んだ挙句、リッカはセバンたちを呼び集めた。
「ねぇ。みんなに新しい仕事を頼んでもいいかしら?」
リッカの呼びかけに、セバンたちはどう言うことだと一様に首を傾げる。
「実はね、水晶から人型の像を掘り出して欲しいのだけど……」
そう言ってリッカはリゼのデザイン画を見せる。




