新人魔女の忙しい一日(1)
今日もリッカは朝早くから工房へやってきている。但し、今日は少しだけ寝坊をした。何故ならば、家と工房の長い道のりをもう歩かなくても良くなったからだ。家と工房の往復を毎日していたリッカだったが、リゼの転移魔法陣のおかげで楽に移動できるようになったと思うと気が緩み、今朝は二度寝をしてしまったのだ。
それでも大遅刻と言うことはなく、いつも通りの時間には工房で作業を開始できたのだから、やはり転移魔法陣というものは便利である。
(でも、毎日転移陣で移動していると、素材採取の機会が減ってしまうから気をつけなくちゃ)
リッカはそう思いながら、セバンたちと共に工房内や作業場を掃除し、今日の作業に取り掛かる。今日は、何としても仕上げてしまわなければならない仕事が一つあった。その材料は既にリゼにより作業場内に運び込まれている。
「それにしても、流石はリゼさん。想定していた水晶よりも随分と大きいものを用意されたのね」
リッカは、目の前の水晶に苦笑いを浮かべる。リッカが今日取り組むべき仕事は、例の思い出を投影することの出来る魔道具の作成である。
早速オーダーメイドの依頼がきたのかと言うとそういう訳ではなく、以前に設計図をリゼに見せた際に、魔道具が完成したらリゼからエルナへ送ると言っていた分である。リゼが、材料と一緒にデザイン画を作業場に準備しておいたと昨夜フクロウの伝言を送ってよこしたのだ。これは暗に完成を急げとプレッシャーをかけられているのだとリッカは思った。
「設計図もあるし試作品もあるから、作るのは問題ないとして……。問題はこのデザイン画かぁ……」
リッカは目の前に置かれたデザイン画をまじまじと見つめる。デザイン画は、リッカの設計図を基にリゼがアレンジを加えたのだろう。だが、とても大賢者が描いたとは思えないほどに、ポップというか味があるというか……。とにかく、言葉に困る仕上がりになっている。
「うぅ……これ、本当にあのリゼさんが描いたデザインなの?」
思わずそう疑いたくなるような出来映えにリッカはため息を吐く。
「完璧に見えるリゼさんにも苦手なものがあるってことなのかしら」
リゼの意外な弱点を見つけたリッカは、なんだか面白くなって一人クスクスと笑う。だが、いつまでも笑っている場合ではない。このデザイン画を解読し、リゼのイメージに近い形で魔道具を仕上げなくてはならないのだから。リッカは早速取り掛かることにした。